餡こ
あんこ
名詞
標準
文例 · 用例
最も得意なのは、も一つ茸で、名も知らぬ、可恐しい、故郷の峰谷の、蓬々しい名の無い菌も、皮づつみの餡ころ餅ぼたぼたと覆すがごとく、袂に襟に溢れさして、山野の珍味に厭かせたまえる殿様が、これにばかりは、露のようなよだれを垂し、「牛肉のひれや、人間の娘より、柔々として膏が滴る……甘味ぞのッ。
— 泉鏡花 『茸の舞姫』 青空文庫
力餅 力餅といふものは大福に製して賣るところもあるが、多くは餡ころに造つて、旅する人の助けとする。
— 島崎藤村 『桃の雫』 青空文庫
石崖の下の雪どけで、道が餡このようにこねこねしている通りの旅人宿に、一泊三十銭で私は泥のような体を横たえることが出来た。
— 林芙美子 『新版 放浪記』 青空文庫
されば一わたり上戸と下戸の口にあう鮨と餡ころの月旦を試みように、弥助は両国の与兵衛、代地の安宅の松、葭町の毛抜鮨とか、京橋の奴や緑鮨、数え立てたら芝にも神田にも名物は五ヶ所七ヶ処では利かないが、何といっても魚河岸のうの丸にとどめを差す。
— 柴田流星 『残されたる江戸』 青空文庫
阿父さんは西洋料理の進歩した食物を食べる癖に小児は天保度以来少しも改良せざる塩煎餅や餡ころ餅を食べる有様だ。
— 春の巻 『食道楽』 青空文庫
真中どころにごろごろして竹の皮包みの餡ころかなにかを頬張りながら、下卑た話をしてゲラゲラ笑っているのもあります。
— 如法闇夜の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
こちらで寝転んで、餡ころを頬張りながらゲラゲラ笑って下卑た話をしているのが、米友の耳によく入ります。
— 如法闇夜の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
「二人とも化かされてるんだから、糞を御馳走のつもりで喰べるんだよ」光子は面白くて堪らぬようにゲラゲラ笑いながら、自分の口で喰いちぎった餡ころ餅だの、滅茶滅茶に足で蹈み潰した蕎麦饅頭だの、鼻汁で練り固めた豆妙りだのを、さも穢ならしそうに皿の上へ堆く盛って私達の前へ列べ、「これは小便のお酒のつもりよ。
— 谷崎潤一郎 『少年』 青空文庫