細殿
ほそどの
名詞
標準
文例 · 用例
殿上の役人たちももう寝んでしまっているこんな夜ふけにもし中宮へ接近する機会を拾うことができたらと思って、源氏は藤壺の御殿をそっとうかがってみたが、女房を呼び出すような戸口も皆閉じてしまってあったので、歎息しながら、なお物足りない心を満たしたいように弘徽殿の細殿の所へ歩み寄ってみた。
— 花宴 『源氏物語』 青空文庫
昔の弘徽殿の細殿の小室へ中納言の君が導いたのである。
— 榊 『源氏物語』 青空文庫
日の落ちるまで光君は淋しさ、悲しさにたえられないと云うようにして居られたが夜に入ってから只一人うつむき勝に病上りのようにフラフラしながら細殿をあてどもなくさまよって居るといきなり女らしいなまめいた香に頭を上げて見ると光君の躰は目に見えない何物かに引かれて西の対へ来て居た。
— 宮本百合子 『錦木』 青空文庫
光君は去りにくい心持になって若しや彼の人の声はしないかしら、童にでも合えばなどとあてどもないことをたよりにしずまった細殿を行ったり来たりして居ると傍の部屋ではしゃいだ女の声で高らかに人の噂をして居るのがハッキリ聞える。
— 宮本百合子 『錦木』 青空文庫
いきなり向うの細殿を小供の足音でかけて来るものが有る。
— 宮本百合子 『錦木』 青空文庫
細殿の前には丁子の匂が夜気に強く漂っていた。
— 堀辰雄 『姨捨』 青空文庫
「なにさまで思ひ出でけむなほざりの木の葉にかけし時雨ばかりを」 その時その細殿の方へ履音を響かせながら、五六人の殿上人たちが男を追うようにやって来た。
— 堀辰雄 『姨捨』 青空文庫
男は殿上人たちに拉せられながら、細殿の前に漂っていた丁子の匂を気にでもするように、その方を見返りがちに、再び履音をさせながら其処を立ち去って往った。
— 堀辰雄 『姨捨』 青空文庫