朧々
朧々
名詞
標準
文例 · 用例
三月の中の七日、珍しく朝凪ぎして、そのまま穏かに一日暮れて……空はどんよりと曇ったが、底に雨気を持ったのさえ、頃日の埃には、もの和かに視められる……じとじととした雲一面、星はなけれど宵月の、朧々の大路小路。
— 泉鏡花 『菎蒻本』 青空文庫
朧々の夜も過ぎず、廓は八重桜の盛というのに、女が先へ身を隠した。
— 泉鏡花 『第二菎蒻本』 青空文庫
それは冷たかったけれども、小春凪の日の余残に、薄月さえ朧々と底の暖いと思ったが、道頓堀で小休みして、やがて太左衛門橋を練込む頃から、真暗になったのである。
— 泉鏡花 『南地心中』 青空文庫
……だもの、記憶も何も朧々とした中に、その悲しいうつくしい人の姿に薄明りがさして見える。
— 泉鏡花 『縷紅新草』 青空文庫
月の影、日の影、燈の影、雪、花の朧々のあかりにも、見て影のない隙はなし……影あれば其の不氣味さ、可厭さ、可恐しさ、可忌しさに堪兼ねる。
— 泉鏡太郎 『三人の盲の話』 青空文庫
面八句を庵の柱に懸置き、弥生も末の七日、明ぼのゝ空|朧々として、月は有明にて光をさまれるものから、不二の峰かすかに見えて、上野|谷中の花の梢またいつかはと心細し。
— 島崎藤村 『桜の実の熟する時』 青空文庫
*読者の眼頭に彷彿として展開するものは、豪壮悲惨なる北欧思想、明暢清朗なる希臘田野の夢、または銀光の朧々たること、その聖十字架を思はしむる基督教法の冥想、特に印度大幻夢|涅槃の妙説なりけり。
— 上田敏 『海潮音』 青空文庫
モオル廻廊の古院、黒衣僧兵のかばね、天日、石だたみを照らして、紅流に烟たち、朧々たる低き戸の框に、立つや老僧。
— 上田敏 『海潮音』 青空文庫