立ん坊
たちんぼう
名詞
標準
文例 · 用例
今、橋の上を欄干に添って、日本銀行の方へ半ば渡り掛けると、橋詰の、あの一石餅の、早や門を鎖した軒下に、大な立ん坊の迷児のごとく蹲っていた男がむらむらと立つと、ざわざわと毛の音を立てて、鼻息を前にハッハッ獣の呼吸づかい。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
河岸の腸拾いや、立ん坊は大事無いですれど、棄子が分ると引っぱられるでね、獄へ入れられる。
— 泉鏡花 『日本橋』 青空文庫
酔払っていると知りながら、胡坐をかく事も跪坐る事も出来ない人間だろう」「まあ立ん坊だね」と甲野さんは淋し気に笑った。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
「立ん坊か」と云ったまま宗近君は駱駝の膝掛の馬簾をひねくり始めたが、やがて「いつまでも立ん坊か」と相手の顔は見ず、質問のように、独語のように、駱駝の膝掛に話しかけるように、立ん坊を繰り返した。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
「立ん坊でも覚悟だけはちゃんとしている」と甲野さんはこの時始めて、腰を浮かして、相手の方に向き直る。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
「つまり、家を藤尾にくれてしまえばそれで済むんだからね」「それで君はどうするんだい」「僕は立ん坊さ」「いよいよ本当の立ん坊か」「うん、どうせ家を襲いだって立ん坊、襲がなくったって立ん坊なんだからいっこう構わない」「しかしそりゃ、いかん。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
「車夫でも、立ん坊でも、泥棒でも、僕がありがたいと思う刹那の顔、すなわち神じゃないか。
— 夏目漱石 『行人』 青空文庫
友人は気のない顔で「あっても乞食か立ん坊だよ。
— 夏目漱石 『吾輩は猫である』 青空文庫