零れ落ちる
こぼれおちる
動詞
標準
文例 · 用例
零れ落ちる月明を頼りに、やうやく山毛欅のこんもりとした金比羅山の麓まで辿りつくと、それらしい燈火は何一つとして洩れて来なかつたが、ごやごやした人群の喚声が、葉越に近くききとれた。
— 坂口安吾 『黒谷村』 青空文庫
これは零れ落ちるときが最もよい。
— 室生犀星 『冬の庭』 青空文庫
蝉はまた四日目の朝、同じやうに雲の斷れ目をちらりと零れ落ちる陽ざしに、いそいで應へかへすやうに、あのおしやべりの彼がしかし控へ目に、おづおづと、短い聲でぎいと鳴いた。
— 三好達治 『艸千里』 青空文庫
先生……先生と思うてなあ……」 と云ううちに奈良原翁の巨大な両眼から、熱い涙がポタポタと滾れ落ちるのを筆者は見た。
— 夢野久作 『近世快人伝』 青空文庫
――道理で、昏々と眠つてゐた私は、月から滾れ落ちる冷い滴が、乾いた喉をうるほすのに足りないで、水に浮んだ魚の姿で夢中になつてパクパクと滴を貪つてゐた。
— 牧野信一 『環魚洞風景』 青空文庫
その離室は崖から滾れ落ちる筧のわずかな水音がさらさらと耳を打つのみで、そこに籠つてさへ居れば母家への訪問者に姿を見られる気遣ひもなく、窓に映ずる朝夕の三角形の陽ざしで時を知つた。
— 牧野信一 『心象風景(続篇)』 青空文庫
」 滝本はローラを抱いたまゝ、突然――涙が止め度もなく滾れ落ちるのを知つたが、何だかもう得体の知れない感情に掻き乱されて、泥酔の奈落に転落して行く見たいな没理性状態に走つて、声を挙げて泣いた。
— 牧野信一 『南風譜』 青空文庫
河幅はあまり広くないが、岸の牧場にあふれるばかりに滾れ落ちる水は、いかにもたった今氷河から融けて来たと思われる、底濁りのある蒼色で、その重々しい様子が、キンバイの咲き乱れた鮮やかな川岸の草原と、面白いコントラストを示しておる。
— 辻村伊助 『スウィス日記』 青空文庫