帰滅
きめつ
名詞
標準
文例 · 用例
けれども、文子に見棄てられ、裏切られたやうな寂寥が、老ひと孤独のあの諦らめの跫音で、いつしか帰滅へ急ぐやうに彼の心をさらつてゐた。
— ――夢と知性―― 『吹雪物語』 青空文庫
心はすでに古い国へ帰滅してゐた。
— ――夢と知性―― 『吹雪物語』 青空文庫
まして死滅がもたらすところの人生の虚無を観じ、虚無に帰滅することに一分の安らかさをも感じてゐる自分であつた筈なのだ。
— ――夢と知性―― 『吹雪物語』 青空文庫
それは丁度、使ひ古して疲労困憊した観念が、その故郷に帰滅してゆくかのやうな懐しさを持つものであつた。
— 坂口安吾 『黒谷村』 青空文庫
――HALLOO―― ――HALLOO―― 黄昏が帰滅へ誘ふ遥かな言葉。
— 坂口安吾 『麓』 青空文庫
ひつそりした山底の町を目当てなくぐる/\と彷徨うたのち、一軒の薄暗い宿屋を起して古風な汚い座敷へ通ると、部屋の片隅へただぼんやりと坐つてみても、寝床の上へ寝倒れてみてもはるかな帰滅に通じるやうなひろびろとした寂寥がたゞ沁々と四辺をつつみ、遠い彼方を流れてゐる自然の精気が心に通じてくるのであつた。
— 坂口安吾 『逃げたい心』 青空文庫