蜈
蜈
名詞
標準
文例 · 用例
侍女二 長う太く、数百の鮫のかさなって、蜈蚣のように見えたのが、ああ、ちりぢりに、ちりぢりに。
— 泉鏡花 『海神別荘』 青空文庫
ト斜に、がッくりと窪んで暗い、崕と石垣の間の、遠く明神の裏の石段に続くのが、大蜈蚣のように胸前に畝って、突当りに牙を噛合うごとき、小さな黒塀の忍び返の下に、溝から這上った蛆の、醜い汚い筋をぶるぶると震わせながら、麸を嘗めるような形が、歴然と、自分が瞳に映った時、宗吉はもはや蒼白になった。
— 泉鏡花 『売色鴨南蛮』 青空文庫
」 絨毯を縫いながら、治兵衛の手の大小刀が、しかし赤黒い電燈に、錆蜈蚣のように蠢くのを、事ともしないで、「何が、犬にも牙がありゃ、牛にも角があるだあね。
— 泉鏡花 『みさごの鮨』 青空文庫
およそ半時間は連続いたし候ひしならむ、やがて最後の一人の、身体黒く足赤きが眼前をよぎり候あと、またひらひらと群集左右より寄せ合うて、両側に別れたる路を塞ぎ候時、その過行きし方を打眺め候へば、彼の怪物の全体は、遥なる向の坂をいま蜿り蜿りのぼり候|首尾の全きを、いかにも蜈蚣と見受候。
— 泉鏡花 『凱旋祭』 青空文庫
あれはと見る間に百尺波状の黒線の左右より、二条の砂煙真白にぱツと立つたれば、その尾のあたりは埃にかくれて、躍然として擡げたるその臼の如き頭のみ坂の上り尽くる処雲の如き大銀杏の梢とならびて、見るがうちに、またただ七色の道路のみ、獅子の背のみ眺められて、蜈蚣は眼界を去り候。
— 泉鏡花 『凱旋祭』 青空文庫
彼の巨象と、幾頭の獅子と、この蜈蚣と、この群集とが遂に皆式場に会したることをおん含の上、静にお考へあひなり候はば、いかなる御感じか御胸に浮び候や。
— 泉鏡花 『凱旋祭』 青空文庫
」 而して、其の提灯の顋に、凄まじい影の蠢くのは、葉やら、何やら、べた/\と赤く蒼く塗つた中に、眞黒にのたくらしたのは大きな蜈蚣で、此は、其の宮のおつかはしめだと云ふのを豫て聞いた。
— 泉鏡太郎 『月夜』 青空文庫
いいえね、竜宮の乙姫てえ素ばらしいのだって、蜈蚣にゃあ敵いませんや、瀬多の橋へあらわれりゃ、尋常の女でしょう、山の主が梅干になって、木樵に嘗められたという昔話がありますッてね、争われねえもんです。
— 泉鏡花 『三枚続』 青空文庫