無紋
むもん
名詞
標準
文例 · 用例
するりと無紋の幕が垂れて、ゆるく絞つた総の紫は、地を透く内側の燈の影に、色も見えつつ、ほのかに人声が漏れて聞えた。
— 泉鏡花 『妖魔の辻占』 青空文庫
灯なき御神燈は、暮迫る土間の上に、無紋の白張に髣髴する。
— 泉鏡花 『浮舟』 青空文庫
着ている物は浅葱の無紋の木綿縮と思われる、それに細い麻の襟のついた汗取りを下につけ、帯は何だかよく分らないけれども、ぐるりと身体が動いた時に白い足袋を穿いていたのが目に浸みて見えた。
— 幸田露伴 『幻談』 青空文庫
無紋の袍に灰色の下襲で、冠は喪中の人の用いる巻纓であった。
— 葵 『源氏物語』 青空文庫
小野さんは、この黒い眼から早速に放つ、見えぬ光りに、空かけて織りなした無紋の網に引き掛った餌食である。
— 夏目漱石 『虞美人草』 青空文庫
飛騨生活の形見として残った烏帽子を片づけたり無紋で袖の括ってある直衣なぞを手に取って打ちかえしながめたりするお民と一緒になって見ると、長く別れていたあとの尽きない寝物語はよけいに彼のからだから疲れを引き出すようなものであった。
— 第二部下 『夜明け前』 青空文庫
ぴらり帽子で顔を包み、無紋の衣裳を着ているので、誰も藩主だと気の附くものがない。
— 国枝史郎 『天主閣の音』 青空文庫
無紋の黒の着流しに、お誂い通りの覆面頭巾、何か物でも考えているのか、俯向きかげんに肩を落とし、シトシトとこっちへ歩いて来た。
— 国枝史郎 『八ヶ嶽の魔神』 青空文庫