銜
くくみ
名詞
標準
文例 · 用例
稍々あつて男――もう今では夫、入口より葉巻を銜へ、長きマントの儘、如何にも寒い中を歩いて帰つて来た風である。
— 中原中也 『夢』 青空文庫
「ははあ、野郎、下流から上って来るところに、餌が流れて来たもんだから、銜えて上ったんだな」 と云うことを私は感得した。
— 葉山嘉樹 『信濃の山女魚の魅力』 青空文庫
どうするかと思っていると、このやや長味のある団塊をうまく二つに食い切って、その片方を丁寧に丸めた後に、それを銜えて前日と同じ方向へ飛んで行った。
— 寺田寅彦 『蜂が団子をこしらえる話』 青空文庫
いよいよ星が見え出しても口に銜えた煙草を捨てないで望遠鏡を覗いていると煙が直上して眼を刺戟し、肝心な瞬間に星の通過を読み損なうようなことさえあった。
— 寺田寅彦 『喫煙四十年』 青空文庫
見ると、小さな餌を、虫らしい餌を、親は嘴に銜えているのである。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫
ふくめつつ、後ねだりをするのを機掛に、一粒|銜えて、お母さんは塀の上――(椿の枝下で茲にお飯が置いてある)――其処から、裏露地を切って、向うの瓦屋根へフッと飛ぶ。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫
嘴に小さな芋虫を一つ銜え、あっち向いて、こっち向いて、ひょいひょいと見せびらかすと、籠の中のは、恋人から来た玉章ほどに欲しがって駈上り飛上って取ろうとすると、ひょいと面を横にして、また、ちょいちょいと見せびらかす。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫
一株の萩を、五、六羽で、ゆさゆさ揺って、盛の時は花もこぼさず、嘴で銜えたり、尾で跳ねたり、横顔で覗いたり、かくして、裏おもて、虫を漁りつつ、滑稽けてはずんで、ストンと落ちるかとすると、羽をひらひらと宙へ踊って、小枝の尖へひょいと乗る。
— 泉鏡花 『二、三羽――十二、三羽』 青空文庫