向心
こうしん
名詞
標準
文例 · 用例
あの頃自分は愛読していた書物などの影響から、人間は別になんにもしなくても、平和に綺麗に一生を過せばそれでよいと云ったような考えが漠然と出来ていたので、病気で試験を休もうが、落第しようが、そんな事は一向心配しなかった。
— 寺田寅彦 『枯菊の影』 青空文庫
その若先生が、お嬢さん、あなたを望みで、影|日向心を入れていたというのに、何と私が着絡ってるばかりに、控えたというじゃアありませんか。
— 泉鏡花 『三枚続』 青空文庫
――ここがその、少々変な塩梅なのでござりまして、先が盲だとも、盲だからとも、乃至、目あきでないとも、そんな事は一向心着かず……それには、ひけ頃で帳場もちょっとごたついていたでもござりましょうか。
— 泉鏡花 『怨霊借用』 青空文庫
されども紳士は一向心附かぬ容子で、尚お彼方を向いて鵠立でいたが、再三再四|虚辞儀をさしてから、漸くにムシャクシャと頬鬚の生弘ッた気むずかしい貌を此方へ振向けて、昇の貌を眺め、莞然ともせず帽子も被ッたままで唯|鷹揚に点頭すると、昇は忽ち平身低頭、何事をか喃々と言いながら続けさまに二ツ三ツ礼拝した。
— 二葉亭四迷 『浮雲』 青空文庫
信綱は止むなく城中を探ろうと、西下途次、近江甲賀から連れて来た忍びの者達に、探らしめたが、城内の者は皆切利支丹の文句を口にするので、一向心得のない忍びの者達は、城中にまぎれ住む事が出来ない。
— 菊池寛 『島原の乱』 青空文庫
この辺の地理を一向心得ない私は、奥さんの知識に驚いたくらいです。
— 夏目漱石 『こころ』 青空文庫
彼は吾輩の近づくのも一向心付かざるごとく、また心付くも無頓着なるごとく、大きな鼾をして長々と体を横えて眠っている。
— 夏目漱石 『吾輩は猫である』 青空文庫
夫またその通り行い、妻竈中で種々言い訳すれど一向心を動かさぬを見極め、ああ道人わが秘密を君に洩らした、彼はわが灰を獲んと望むのだ、君わが秘密を知ったと気付いたなら、われは君を活かし置かなんだはずだと叫んで焼け死んだ。
— 蛇に関する民俗と伝説 『十二支考』 青空文庫