蠢
蠢
名詞
標準
文例 · 用例
今度はまた川になる、川の面は、呼吸も吐かず静まりかえっているように見えるが、足を入れると、それこそ疾風が液体になったように全速力で走っている、流れの浅く、彎入した、緩やかなところに背を露わした石がある、苔が厚く活物の緑が蠢めいている、水草の動くのは、髪の毛がピシピシと流電に逆立つようだ。
— 小島烏水 『梓川の上流』 青空文庫
まどろむこと一瞬間、焚火も全く消えた、一個の逞ましい木像と、一個の冷たい大理石像と、小舎の中に横わる、一は依然として動かないのに、一は蠢めいて待つものあり。
— 小島烏水 『奥常念岳の絶巓に立つ記』 青空文庫
が、全く人間も他の動物と同様に食うため、生殖するために、地上で蠢動してるんだね」藤原は人間であることを悲しむようにこういった。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
「食うことと、生殖することだけで活動してるから、それで蠢動してるというのかい」今度は小倉が皮肉な聞き手になった。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
「ところが君、ブルジョアはそれ以上の高利貸的官能のために、あるいはまた倒錯症的欲望のために、食わせないこと、と、生殖させないこととで蠢動してるんじゃないのかい」といって小倉は大声立てて笑ったが、フト気がついたように、ボーイ長の方を見やって口をつぐんだ。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
無数の黒色の旅客が、この東洋一とやらの大停車場に、うようよ、蠢動していた。
— 太宰治 『座興に非ず』 青空文庫
たそがれ、部屋の四隅のくらがりに何やら蠢めき人の心も、死にたくなるころ、ぱっと灯がついて、もの皆がいきいきと、背戸の小川に放たれた金魚の如く、よみがえるから不思議です。
— 太宰治 『喝采』 青空文庫
いつも力無い咳をして、さうして顔色も悪く、朝起きて部屋の障子にはたきを掛け、箒で塵を掃き出すと、もう、ぐつたりして、あとは、一日一ぱい机の傍で寝たり起きたり何やら蠢動して、夕食をすますと、すぐ自分でさつさと蒲団を引いて寝てしまふ。
— 太宰治 『お伽草紙』 青空文庫