染抜き
そめぬき
名詞
標準
文例 · 用例
独逸人クルトの著『東洲斎写楽論』の巻末に添へたる挿絵の中、春章が暫の図は橘の紋染抜きたる花道の揚幕を後にして大なる素袍の両袖|宛ら蝙蝠の翼ひろげたるが如き『暫』を真正面より描しものにて、余はその意匠の奇抜なるに一驚せり。
— 永井荷風 『江戸芸術論』 青空文庫
紺木綿に白抜きの屋号、中央にはヤマ一とかカネ三とかの店|印し、朝晩小僧さんが六尺柄の暖簾掛けでかけはずし、これも一つの商店気分で、町内一列、同時にやはり紺木綿へ屋号染抜きの日除けを店先へ張る。
— 山本笑月 『明治世相百話』 青空文庫
目鼻立の愛くるしい、罪の無い丸顔、五分刈に向顱巻、三尺帯を前で結んで、南の字を大く染抜いた半被を着て居る、これは此処の大家の仕着で、挽いてる樟もその持分。
— 泉鏡花 『三尺角』 青空文庫
高い男は玄関を通り抜けて縁側へ立出ると、傍の坐舗の障子がスラリ開いて、年頃十八九の婦人の首、チョンボリとした摘ッ鼻と、日の丸の紋を染抜いたムックリとした頬とで、その持主の身分が知れるという奴が、ヌット出る。
— 二葉亭四迷 『浮雲』 青空文庫
背中は濃く、腹部に向うに従って、うすくなっている、その黄色の地色を、鮮かに染抜いて流れる黒の縞。
— 中島敦 『虎狩』 青空文庫
日はすでに落ちて、旧ふらんす領事館と、その森の、黒い影絵がくっきりと黄色い空を染抜いていた。
— 中島敦 『プウルの傍で』 青空文庫
白い字が染抜いてある。
— 夏目漱石 『永日小品』 青空文庫
是公の家の屋根から突出した細長い塔が、瑠璃色の大空の一部分を黒く染抜いて、大連の初秋が、内地では見る事のできない深い色の奥に、数えるほどの星を輝つかせていた。
— 夏目漱石 『満韓ところどころ』 青空文庫