鎚
鎚
名詞
標準
文例 · 用例
平生は鉄工所でどんがんする鎚の音、紡績会社の器械のうなり、汽笛の響、有らゆる諸工場の雑多な物鳴り等、大都会の騒々しさも、今日は一切に耳に入らない。
— 伊藤左千夫 『大雨の前日』 青空文庫
火気の満たる室にて頸やいたからん、振あぐる鎚に手首や痛からん」 女は破れ窓の障子を開らきて外面を見わたせば、向ひの軒ばに月のぼりて、此処にさし入る影はいと白く、霜や添ひ来し身内もふるへて、寒気は肌に針さすやうなるを、しばし何事も打わすれたる如く眺め入て、ほと長くつく息、月かげに煙をゑがきぬ。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
夢のうちなる遠近法、夏の夜風の小鎚の重量、それ等は既になし。
— 中原中也 『地極の天使』 青空文庫
貴公子、鉄鎚だつたのかな?
— 太宰治 『富嶽百景』 青空文庫
そうして後に不利な証拠物件を提供するためにダンサーの指環を靴磨きに贈らせ、靴磨きの金鎚をその部屋に遺却させる。
— 寺田寅彦 『初冬の日記から』 青空文庫
……ちょうな、鋸、鉄鎚の賑かな音。
— 泉鏡花 『みさごの鮨』 青空文庫
が、あの鉄鎚の音を聞け。
— 泉鏡花 『小春の狐』 青空文庫
印半纏の威勢のいいのでなく、田船を漕ぐお百姓らしい、もっさりとした布子のなりだけれども、船大工かも知れない、カーンカーンと打つ鎚が、一面の湖の北の天なる、雪の山の頂に響いて、その間々に、「これは三保の松原に、伯良と申す漁夫にて候。
— 泉鏡花 『小春の狐』 青空文庫