懐出
ふところで
名詞
標準
文例 · 用例
摩利支天の祠に詣ずるに先立ちて、その太さ三拱にも余りぬべき一本杉の前を過ぐる時、ふと今の世にも「丑の時詣」なるものありて、怨ある男を咒う嫉妬深き婦人等の、此処に詣で来て、この杉に釘を打つよし、人に聞きしを懐出でたり。
— 泉鏡花 『黒壁』 青空文庫
「何をそんなに塞いでお出でなさるの」「何も塞いじゃいません」「そう、私はまたお留さん(大方老母が文三の嫁に欲しいと云ッた娘の名で)とかの事を懐出して、それで塞いでお出でなさるのかと思ッたら、オホホホ」 文三は愕然としてお勢の貌を暫らく凝視めて、ホッと溜息を吐いた。
— 二葉亭四迷 『浮雲』 青空文庫
妙に僕は昔を懐出した――ホラ、君と一緒に勉強した彼の時代のことなぞを。
— 島崎藤村 『破戒』 青空文庫
成功した其時の嬉しさも思出でるが、併し多くは其時一處に行つた友の、死んだのや、遠ざかつたのや、いろ/\それを懷出して、時々變な感情に打たれもする。
— 權現臺の懷古 『探檢實記 地中の秘密』 青空文庫