湿し
しめし
名詞
標準
文例 · 用例
「ボーイ長にやるんだって、ああ、いいとも、持って行きな、そうかい、じゃあパンを一斤ばかり持ってって、牛乳と卵とで湿してやるといいや、ほら、ここに砂糖と、……それだけでいいかい、そしてどうだね、ボーイ長の容態は」シチャードは親切に倉庫から、それらのものを笊へ出してくれた。
— 葉山嘉樹 『海に生くる人々』 青空文庫
渠はそのとき巻莨を取り出だして、脣に湿しつつ、「話はこれからだ」 左側の席の前端に並びたる、威儀ある紳士とその老母とは、顔を見合わせて迭いに色を動かせり。
— 泉鏡花 『義血侠血』 青空文庫
その緑色の風呂敷で、覆われて在る電燈の光が、部屋をやわらかく湿して、私の机も、火鉢も、インク瓶も、灰皿も、ひっそり休んでいて、私はそれらを、意地わるく冷淡に眺め渡して、へんに味気なく、煙草でも吸おうか、と蒲団に腹這いになりかけたら、また足もとで、ガリガリ鼠の材木を噛る音。
— 太宰治 『春の盗賊』 青空文庫
彼等は、昼に、パンと乾麺麭をかじり、雪を食ってのどを湿した。
— 黒島伝治 『渦巻ける烏の群』 青空文庫
第一、それじゃア痩せますもの」 上村は言って杯で一寸と口を湿して「僕は痩せようとは思っていなかった!
— 国木田独歩 『牛肉と馬鈴薯』 青空文庫
半七は柘榴口へはいって体を湿していると、湯気にとざされていた風呂のなかで、男同士の話し声がきこえた。
— 大森の鶏 『半七捕物帳』 青空文庫
ひと雫、ふた雫ほどの諸行無常は現在やゝ乾き気味になった心の謎の境涯を持ち続けるためにも湿し薬になるかも知れない。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
こうして出来た詰物を臓腑を出したあとの鵞鳥の腹の中に詰め口を糸で括り金串にさして汁で湿しながら焼く。
— 岡本かの子 『食魔に贈る』 青空文庫