独り居
ひとりい
名詞
標準
文例 · 用例
感情といふ語の内容も色々であらうが、「独り居て怡しむ」底の感情、対人的に発露するに非ざる、そこはかとなき欣怡の情である。
— 中原中也 『感情喪失時代』 青空文庫
悪念、邪心に、肝も魂も飛上って……あら神様で、祟の鋭い、明神様に、一昨日と、昨日、今日……」 ――誓ただひとりこの御堂に――「独り居れば、ひとり居るほど、血が動き、肉が震えて、つきます息も、千本の針で身体中さすようです。
— 泉鏡花 『神鷺之巻』 青空文庫
人独り居るは好ましきことに非ず、余は他の室に乗換へんかとも思つたが、思い止まつて雨と霧との為めに薄暗くなつて居る室の片隅に身を寄せて、暮近くなつた空の雲の去来や輪をなして回転し去る林の立木を茫然と眺めて居た。
— 國木田独歩 『空知川の岸辺』 青空文庫
他日また父が独り居られた時に、庭を通り過ぎようとして、礼を学んだかと言われたので、未だですと答えた。
— 幸田露伴 『悦楽(現代訳)』 青空文庫
始終黙つて独り居る事を好み遊ばうともしなかつた。
— 村山槐多 『悪魔の舌』 青空文庫
姉や植源の嫁が騒いでいるように、鶴さんがそんなに好い男なのかと、時々帳場格子のなかに坐っている良人の顔を眺めたり、独り居るときに、そんな思いを胸に育み温めていたりして、自分の心が次第に良人の方へ牽つけられてゆくのを、感じないではいられなかった。
— 徳田秋声 『あらくれ』 青空文庫
独り居室にいるときでも、夜、牀上に横になったときでも、ふとこの屈辱の思いが萌してくると、たちまちカーッと、焼鏝をあてられるような熱い疼くものが全身を駈けめぐる。
— 中島敦 『李陵』 青空文庫
彼がまだ多少は健康で、肉体的な感覚に酔っていた時でも、今のような消極的な独り居の生活を営んでいる時でも、常に、この底流の小さな響がパスカル風な伴奏となって、何処からともなく聞えていたのである。
— 中島敦 『狼疾記』 青空文庫