淒
淒
名詞
標準
文例 · 用例
風流人の浦島にも、何だか見當のつかぬ可憐な、たよりない、けれども陸上では聞く事の出來ぬ氣高い淒しさが、その底に流れてゐる。
— 太宰治 『お伽草紙』 青空文庫
こんな微量な降灰で空も別に暗いというほどでもないのであるが、しかしいつもの雨ではなくて灰が降っているのだという意識が、周囲の見慣れた景色を一種不思議な淒涼の雰囲気で色どるように思われた。
— 寺田寅彦 『小爆発二件』 青空文庫
炉の中の火は、予等に取つては一瞥してさへ眼睛の糜爛を恐れしめ、二目とは覗かれない程に淒惨なものであるが、どの熔炉の口にも焦熱地獄の竃を焚く鬼の如き火夫が炭を投じ火を守つて、冷然と蹲居してゐるのに驚かれた。
— 附 満蒙の歌 『満蒙遊記』 青空文庫
その温かみと昼の疲れとで間も無く眠つてしまつたが、夜中にふと目を覚ますと、巌と松とに当る山風が窓に響いて物淒いほどである。
— 附 満蒙の歌 『満蒙遊記』 青空文庫
私は岸の上に立ちながら、沙ばかりの地平線に落ちようとしてゐる日の色の淒壮な大景を河の彼方に望んで、李白のやうな支那の大詩人の万古に消し難い寂寞哀愁の思想が、甚だ根柢の深いものである事を想はずにはゐられなかつた。
— 附 満蒙の歌 『満蒙遊記』 青空文庫
松花江の大鉄橋を真一文字に渡る時の響と速力とは物淒いものであつた。
— 附 満蒙の歌 『満蒙遊記』 青空文庫
牛方の顏はまるで仁王のやうに血と汗で彩色され、狂氣のやうに物淒い怒號を續ける。
— 若杉鳥子 『烈日』 青空文庫
一同は階段のほうへ突進して、ドアのところで物淒い押し合いへし合いを演じた。
— ドストエーフスキイ 『永遠の夫』 青空文庫