袱
ふく
名詞
標準
文例 · 用例
証拠は無かったが、怪むべき風体の奴だから、その筋の係が、其奴を附廻して、同じ夜の午前二時頃に、浅草橋辺で、フトした星が附いて取抑えると、今度は袱紗に包んだ紙入ぐるみ、手も着けないで、坂田氏の盗られた金子を持っていたんだ。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
談話の聽人は皆婦人で、綺麗な人が大分見えた、と云ふ質のであるから、羊羹、苺、念入に紫袱紗で薄茶の饗應まであつたが――辛抱をなさい――酒と云ふものは全然ない。
— 泉鏡太郎 『人魚の祠』 青空文庫
温泉で、見知越で、乗合わした男と――いや、その男も実は、はじめて見たなどと話していると、向う側に、革の手鞄と、書もつらしい、袱紗包を上に置いて、腰を掛けていた、土耳古形の毛帽子を被った、棗色の面長で、髯の白い、黒の紋織の被布で、人がらのいい、茶か花の宗匠といった風の……」 半ば聞いて頷いた。
— 泉鏡花 『半島一奇抄』 青空文庫
この娘が紫の袱紗に載せて、薄茶を持って来たんです。
— 泉鏡花 『歌行燈』 青空文庫
」「あい、」 とわずかに身を起すと、紫の襟を噛むように――ふっくりしたのが、あわれに窶れた――頤深く、恥かしそうに、内懐を覗いたが、膚身に着けたと思わるる、……胸やや白き衣紋を透かして、濃い紫の細い包、袱紗の縮緬が飜然と飜ると、燭台に照って、颯と輝く、銀の地の、ああ、白魚の指に重そうな、一本の舞扇。
— 泉鏡花 『歌行燈』 青空文庫
二十歳ぐらいかと想った」「何か奢りましょうよ」 白糸は帯の間より白|縮緬の袱紗包みを取り出だせり。
— 泉鏡花 『義血侠血』 青空文庫
お蝶どのをすぐこれへ」 凛とした声できめ付けられて、お亀はいよいようろたえていると、女は袱紗につつんで来た小判のつつみを出して、うす暗い行燈の前へ二つならべた。
— 奥女中 『半七捕物帳』 青空文庫
桂子はそれを袱紗に包んで、「どれ、若い恋人に会ひに行かうかね」 なかばせん子の気を牽きながらかういつた。
— 岡本かの子 『花は勁し』 青空文庫