抜打
ぬけだ
名詞
標準
文例 · 用例
室へ戻って、友人にハガキを書いていると、富士の雲が引いて取ったように幕を明け、銀磨きの万年雪が、巨獣の斑紋のように二筋三筋キラリと光って、夏の富士にして始めて見るところの、威嚇的な紫色が、抜打に稲妻でもひらめかしそうに、うつぼつと眉に迫って来る。
— 小島烏水 『不尽の高根』 青空文庫
……思え、講釈だと、水戸黄門が竜神の白頭、床几にかかり、奸賊紋太夫を抜打に切って棄てる場所に……伏屋の建具の見えたのは、どうやら寂びた貸席か、出来合の倶楽部などを仮に使った興行らしい。
— 泉鏡花 『木の子説法』 青空文庫
斬るか、斬られるか、真剣抜打の応酬なくんばあるべからざる処を、面壁九年、無言の行だ。
— 泉鏡花 『薄紅梅』 青空文庫
肉体が疲れて意志を失ってしまったときには、鎧袖一触、修辞も何もぬきにして、袈裟がけに人を抜打ちにしてしまう場合が多いように思われます。
— 太宰治 『女の決闘』 青空文庫
それは抜打ちだった。
— 断片 『小さき良心』 青空文庫
主食と闇煙草の販売を弾圧する旨の声明は、わざわざ何月何日よりと予告を発して、これまで十数回発表されたし、抜打ちの検挙も行われる。
— 織田作之助 『大阪の憂鬱』 青空文庫
どんなに極秘にされた抜打ちの手入れでも、事前に洩れる。
— 織田作之助 『大阪の憂鬱』 青空文庫
……またある武士が、夜半に前へ立つ、怪い女を、抜打ちに斬りつけると、それが自分の奥方の、夢から抜出した魂だったりしたんですって……可厭な処…… ――河童は今でも居ますとさ。
— ――(前題――楊弓) 『ピストルの使い方』 青空文庫