茫乎
ぼうこ
形容動詞
標準
文例 · 用例
何か、身体もぞくぞくして、余り見ていたくもなかったそうだが、自分を見懸けて、はじめたものを、他に誰一人いるではなし、今更帰るわけにもなりませんような羽目になったとか言って、懐中の紙入に手を懸けながら、茫乎見ていたと申します。
— 泉鏡花 『春昼』 青空文庫
「大抵推量もなさるであらうが、いかに草臥れて居つても申上げたやうな深山の孤家で、眠られるものではない其に少し気になつて、はじめの内私を寝かさなかつた事もあるし、目は冴えて、まじ/\して居たが、有繋に、疲が酷いから、心は少し茫乎して来た、何しろ夜の白むのが待遠でならぬ。
— 泉鏡太郎 『高野聖』 青空文庫
」「其を順にお話しませう、」と雪枝は一度塞いだ目を、茫乎と開けて、「父が此の処を巡廻した節、何処か山蔭の小さな堂に、美い二十ばかりの婦の、珍しい彫像が有つたのを、私の玩弄にさせうと、堂守に金子を遣つて、供のものに持たせて帰つたのを、他に姉妹もなし、姉さんが一人出来たやうに、負つたり抱いたり為ました。
— 泉鏡太郎 『神鑿』 青空文庫
熟と視詰めて、茫乎すると、並べた寐床の、家内の枕の両傍へ、する/\と草が生へて、短いのが見る/\伸びると、蔽ひかゝつて、萱とも薄とも蘆とも分らず……其の中へ掻巻がスーと消える、と大な蛇がのたりと寐て、私の方へ鎌首を擡げた。
— 泉鏡太郎 『神鑿』 青空文庫
それから何のことだらうと考えたやうにも思はれる、今に眼が覚めるのであらうと思つたやうでもある、何だか茫乎したが俄に水ン中だと思つて叫ばうとすると水をのんだ。
— 泉鏡花 『化鳥』 青空文庫
此莊園でラクダルはゴロリと轉がつたまゝ身動もろくに爲ず、手足をダラリ伸したまゝ一言も口を開かず、たゞ茫乎と日がな一日、年から年中、時を送つて居るのである。
— 国木田独歩 『怠惰屋の弟子入り』 青空文庫
其の小机に、茫乎と頬杖を支いて、待人の當もなし、爲う事ござなく、と煙草をふかりと吹かすと、「おらは呑氣だ。
— 泉鏡太郎 『淺茅生』 青空文庫
」 呆れたものいいと、唐突の珍客に、茶屋の女どもは茫乎。
— 泉鏡花 『黒百合』 青空文庫