掻き消す
かきけす
動詞
標準
文例 · 用例
障子の女の影法師、ふっと掻き消すようにいなくなる。
— ―――一幕三場 『春の枯葉』 青空文庫
三兄は、決してそのお仲間に加わらず、知らんふりして自分の席に坐って、凝ったグラスに葡萄酒をひとりで注いで颯っと呑みほし、それから大急ぎでごはんをすまして、ごゆっくり、と真面目にお辞儀して、もう掻き消すように、いなくなってしまいます。
— 太宰治 『兄たち』 青空文庫
相手をすかしたり、なだめたり、もちろんちょいちょい威したりしながら話をすすめ、ああよい頃おいだなと見てとったなら、何かしら意味ふかげな一言とともにふっとおのが姿を掻き消す。
— 太宰治 『玩具』 青空文庫
唯同時に、劣等な虫は、ぽつりと点になつて目を衝と遮つたので、思はず足を縮めると、直に掻き消すが如く、部屋の片隅に失せたが、息つく隙もなう、流れて来て、美しい眉の上。
— 泉鏡花 『蠅を憎む記』 青空文庫
多治見にいち早く私たちを出迎えてくれて、それから中津川に着くまでの汽車中を分時も宣伝の饒舌を絶たなかった、いささか豸へんの恵那峡人Yという、鼻の白くて高い痩せ形の熱狂者が、いつのまにか掻き消すようにいなくなったものである。
— 北原白秋 『木曾川』 青空文庫
そのとき歯をくいしばってもこらえられぬ額の痛みが、掻き消すように失せた。
— 森鴎外 『山椒大夫』 青空文庫
「はあ、さうですか」 坊さんは強ひてとも言はず、それなり何處へか掻き消すやうにゐなくなりました。
— 山村暮鳥 『ちるちる・みちる』 青空文庫
雲はそのまま掻き消すやうに見えなくなつた。
— 薄田泣菫 『独楽園』 青空文庫