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潜戸

くぐりど
名詞
1
標準
文例 · 用例
下に、荷車の片輪はずれたのが、塵芥で埋った溝へ、引傾いて落込んだ――これを境にして軒隣りは、中にも見すぼらしい破屋で、煤のふさふさと下った真黒な潜戸の上の壁に、何の禁厭やら、上に春野山、と書いて、口の裂けた白黒まだらの狗の、前脚を立てた姿が、雨浸に浮び出でて朦朧とお札の中に顕れて活るがごとし。
泉鏡花 婦系図 青空文庫
「うざくらし、厭な――お兄さん……」 芝居がえりの過ぎたあと、土塀際の引込んだ軒下に、潜戸を細目に背にした門口に、月に青い袖、帯黒く、客を呼ぶのか、招くのか、人待顔に袖を合せて、肩つき寒く佇んだ、影のような婦がある。
泉鏡花 みさごの鮨 青空文庫
やつと私は潜戸を開けて表へ出てみた。
岡本かの子 蔦の門 青空文庫
私の家は勝手口へ廻るのも、この蔦の門の潜戸から入つて構内を建物の外側に沿つて行くことになつてゐたので、私は、何遍か、少し年の距つた母子のやうに老女と娘とが睦び合ひつゝ蔦の門から送り出し、迎へられする姿を見て、かすかな涙を催したことさへある。
岡本かの子 蔦の門 青空文庫
京子はその奇怪な無表情の顔を前へ突き出し、両手を延して探ろうとしたが、先刻の影像らしい黒い靄のたたずまいが、以前の位置からすっと動いて表の潜戸の方へ消えて行った。
――二つの連作―― 青空文庫
京子は走って潜戸まで行く。
――二つの連作―― 青空文庫
潜戸を出て左へ走り、鉤の手に右に曲った。
――二つの連作―― 青空文庫
もう寝たのかしらんと危ぶみながら、潜戸に手を掛けると無造作に明く。
伊藤左千夫 浜菊 青空文庫