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猪牙

ちょき
名詞
1
標準
文例 · 用例
船宿の女将が船の舳に手を添えて何の力草にはならなくとも、「いってらっしゃいまし」と押し出す所作のあるのは、旧幕の頃、この辺から猪牙で山谷堀や深川へ遊客が通った時分の名残りの風習だということです。
岡本かの子 生々流転 青空文庫
室子の家の商売の鼈甲細工が、いちばん繁昌した旧幕の頃、江戸|大通の中に数えられていた室子の家の先代は、この引き堀に自前持ちの猪牙船を繋いで深川や山谷へ通った。
岡本かの子 青空文庫
猪牙船の製は既に詳しく知りがたく、小蒸気の煽りのみいたづらに烈しき今日、遊子の旧情やがては詩人の想像にも上らざるに至るべし。
幸田露伴 水の東京 青空文庫
小唄にも、浮かれ浮かれて大川を、下る猪牙船影淡く、水にうつろうえり足は、紅の色香もなんじゃやら、エエまあ憎らしいあだ姿、という穏やかでないのがあるとおり、江戸も四月の声をきくとまず水からふぜいが咲いて、深川あたり大川の里、女もそろそろ色づくが、四月はまた仏にも縁が深い。
開運女人地蔵 右門捕物帖 青空文庫
浮いた調子は猪牙船に乗つた心持がある。
夏目金之助 三四郎 青空文庫
印南は嘗て蘭軒に猪牙舟の対を求められて、直に蛇目傘と答へたと蘭軒雑記に見えてゐるから、必ずや詩をも善くしたことであらう。
森鴎外 伊沢蘭軒 青空文庫
浮いた調子は猪牙船に乗った心持ちがある。
夏目漱石 三四郎 青空文庫
いで、その妻は見るも厭き夫の傍に在る苦を片時も軽くせんとて、彼の繁き外出を見赦して、十度に一度も色を作さざるを風引かぬやうに召しませ猪牙とやらの難有き賢女の志とも戴き喜びて、いと堅き家の守とかつは等閑ならず念ひにけり。
尾崎紅葉 金色夜叉 青空文庫