鍋屋
なべや
名詞
標準
文例 · 用例
無事にトラックも一台で難なく積めると、引越す先は鍋屋横丁を這入つて左に曲つて、も一度左に曲つて一寸行つた右側であるさうな。
— 中原中也 『引越し』 青空文庫
なんと鍋屋横丁の裏辺りから東京高等学校の辺りにかけてといふものは、いやな東京の郊外中でもわけてもいやな所であり、硝子障子から外をみると、枯草の野ッ原の中で子供が三つ凧を揚げてゐる。
— 中原中也 『引越し』 青空文庫
東京ならば牛鍋屋か鰻屋ででもなければ見られない茶ぶだいなるものの前に座を設けられた予は、岡村は暢気だから、未だ気が若いから、遠来の客の感情を傷うた事も心づかずにこんな事をするのだ、悪気があっての事ではないと、吾れ自ら頻りに解釈して居るものの、心の底のどこかに抑え切れない不平の虫が荒れて居る。
— 伊藤左千夫 『浜菊』 青空文庫
・けふのおひるは水ばかり・山へ空へ摩訶般若波羅密多心経晩食後、同宿の鍋屋さんに誘はれて、唐津座へ行く、最初の市議選挙演説会である、私が政談演説といふものを聴いたのは、これが最初だといつてもよからう、何しろ物好きには違ひない、五銭の下足料を払つて十一時過ぎまで謹聴したのだから。
— 種田山頭火 『行乞記』 青空文庫
幇間を罷めて後、鍋屋横町に待合茶屋を出した。
— 森鴎外 『伊沢蘭軒』 青空文庫
当時赤城横町は日蓮に賽するもののために賑ひ、鍋屋横町は人行が稀であつた。
— 森鴎外 『伊沢蘭軒』 青空文庫
でなければ、例の新聞記者と肩書を入れた名刺を振廻して、断られるまでは蕎麦屋牛鍋屋の借食をする。
— 石川啄木 『病院の窓』 青空文庫
或るとき難波橋の吾々得意の牛鍋屋の親爺が豚を買出して来て、牛屋商売であるが気の弱い奴で、自分に殺すことが出来ぬからと云て、緒方の書生が目指された。
— 福翁自伝 『福翁自伝』 青空文庫