卑賤
ひせん
名詞
標準
文例 · 用例
卑賤にそだちたる我身なれば、始よりこの以上を見も知らで、世間は裏屋に限れる物と定め、我家のほかに天地のなしと思はゞ、はかなき思ひに胸も燃えじを、暫時がほども交りし社会は夢に天上に遊べると同じく、今さらに思ひやるも程とほし。
— 樋口一葉 『軒もる月』 青空文庫
「汝は彼を永く攻めなやまして去り往かしめ、彼の面容を変らせて逐いやり給う、その子貴くなるも彼はこれを知らず、卑賤くなるもまたこれを暁らざるなり、ただ己みずからその心に痛苦を覚え己みずからその心に哀くのみ」という。
— 内村鑑三 『ヨブ記講演』 青空文庫
人は落付くところに落付くと言いますが、わたくしは母が父を離れて独身になってから下品になりながら、母の自前の柄らしい、いき/\した母を見、一層卑賤に陥った今、全く母の地金に還った母を見てしまったのでした。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
わたしの父は流浪の末その器用さから芸が身を救けて東都の一部間の踊の師匠にはなったが、天才的の家系とのみ信じ切っている彼は、自分の卑賤に陥った身の上を運命にとのみかずけて、つね/″\世を恨み人を恨みながら家名|挽回の志は妙な方に持って行った。
— 岡本かの子 『生々流転』 青空文庫
卑賤に生れたが、それをかくそうとせず、卑屈な態度は少しもなかった。
— 織田作之助 『土曜夫人』 青空文庫
貴子が貴族に憧れるのは、結局卑賤に生れたことが原因しているが、それと同じ理由で、爪楊枝けずりの職人の家に生れた章三は、貴族というものに敵意を感じていたのである。
— 織田作之助 『土曜夫人』 青空文庫
こういう芸術を徳川時代の民間の卑賤な芸人どもはちゃんと心得ていたわけである。
— 寺田寅彦 『生ける人形』 青空文庫
太閤が微賤であつた時、信長に仕へて卑役を執つたのは、人の知つてゐる事であるが、其の太閤が如何に卑賤の事務を取り行つたかといふ事は考察せぬ人が多い。
— 幸田露伴 『努力論』 青空文庫