気沈
きちん
名詞
標準
文例 · 用例
が、持ぬしは、意気沈んで、髯、髪もぶしょうにのび、面は憔悴はしていたが、素純にして、しかも謹厳なる人物であった。
— 泉鏡花 『唄立山心中一曲』 青空文庫
風静かに気沈み万籟黙寂たるの時に、急卒一響、神装を凝らして眼前に亢立するは蓮仙なり、何の促すところなく、何の襲ふところなく、悠然泥上に佇立する花蕾の、一瞬時に化躰して神韻高趣の佳人となるは、驚奇なり、然り驚奇なり、極めて普通なる驚奇なり、もし花なく変化なきの国あらば、之を絶代の奇事と曰はむ。
— 北村透谷 『心機妙変を論ず』 青空文庫
火の玉と死人との場合もこれと同様にして、火の玉の現出するは、必ず長く晴天続きてまさに雨降らんとし、風なくして夜気沈静であり、低気圧を起こせるときに多いものである。
— 井上円了 『迷信と宗教』 青空文庫
土堤下の遠いところを、夜番の拍子木がカチカチ、嚔一つして通り過ぎた後は夜気沈々、聞こえるものは折柄の上潮がヒタヒタと岸を打つ音ばかり。
— 久生十蘭 『魔都』 青空文庫
例へば雪みぞれの廂を打つ時なぞ田村屋好みの唐桟の褞袍に辛くも身の悪寒を凌ぎつつ消えかかりたる炭火吹起し孤燈の下に煎薬煮立つれば、夜気沈々たる書斎の中に薬烟漲り渡りて深けし夜のさらにも深け渡りしが如き心地、何となく我身ながらも涙ぐまるるやうにてよし。
— 永井荷風 『矢はずぐさ』 青空文庫
それがやがてぱったりと絶え、客も来ず外出もしなくなると、眼に見えて気力が衰え、意気沈むという感じになった。
— 山本周五郎 『めおと蝶』 青空文庫