寒念仏
かんねんぶつ
名詞
標準
文例 · 用例
――帰れ君、森の古家の蔦かづら花も真紅に、飜へれ、君はいづこに、――北のかた柩まうけの媼さび、白髪まじりの寒念仏、賢し比丘らが国や追ふ。
— 北原白秋 『第二邪宗門』 青空文庫
無縁寺の夜は明けにけり寒ねぶつ 寒念仏といふのは無縁の聖霊を弔ふために寒中に出歩行く者なればこの句も無論寺の内で僧の念仏し居る様には非るべし。
— 正岡子規 『墨汁一滴』 青空文庫
とり分き日本では寒念仏の、臘八坐禅の、夜業の、寒稽古の、砧の、香の、茶の湯の季節、紫の二枚|襲に唐織の帯の落着く季節、梅もどきの、寒菊の、茶の花の、寒牡丹の季節、寺寺の鐘の冴える季節、おお厳粛な一面の裏面に、心憎きまで、物の哀れさを知りぬいた冬よ、楽んで溺れぬ季節、感性と理性との調和した季節。
— 與謝野晶子 『晶子詩篇全集』 青空文庫
あまりの寒さが、風花落ちかかる夜更けの街から街を慄えていく寒念仏の辛い境涯が、そのまましきりにいま自分の上にあてはめて考えられてきた。
— 正岡容 『小説 圓朝』 青空文庫
かれがかたりしに、江戸に寒念仏とて寒行をする道心者あり、寒三十日を限りて毎夜鈴が森千|住にいたり刑死の回向をなす。
— 鈴木牧之編撰 『北越雪譜』 青空文庫
その雪をふみて毎夜寒念仏又は寒大神まゐりとて、寒中一七日|或ひは三七日、心々に日をかぎりておのれが志す神仏へまうづ。
— 鈴木牧之編撰 『北越雪譜』 青空文庫
寒念仏寒大神まゐりの苦行あらまし件のごとくなれば、他国はしらず、江戸の寒念仏|裸まゐりに比ふればはなはだ異也。
— 鈴木牧之編撰 『北越雪譜』 青空文庫
かゝる僧なれば年毎に寒念仏の行をつとめ、无言はせざるゆゑ夜毎に念仏して鉦打ならし、ものにまゐりしかへるさ二夜に一度はかの橋に立て年頃おぼれしゝたる者の回向をなししに、今夜は満願とてかの橋にもいたり殊更につとめて回向をなし鉦うちならして念仏しけるに、皎々たる月|遽然に曇りて朦朧たり。
— 鈴木牧之編撰 『北越雪譜』 青空文庫