歯並み
はなみ
名詞
標準
文例 · 用例
祖母も母も姉も伯母もみんな口をあいて笑うと赤いくちびるの奥に黒耀石を刻んだように漆黒な歯並みが現われた。
— 寺田寅彦 『自由画稿』 青空文庫
ぬれた手ぬぐいで、鏡に近づけた目のまわりの白粉をぬぐい終わると、口びるを開いて美しくそろった歯並みをながめ、両方の手の指を壺の口のように一所に集めて爪の掃除が行き届いているか確かめた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
軽く開いたままの口びるからもれる歯並みまでが、光なく、ただ白く見やられて、死を連想させるような醜い美しさが耳の付け根までみなぎっていた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
だってなんにもないんですもの」 なんともいえない媚びをつつむおとがいが二重になって、きれいな歯並みが笑いのさざ波のように口びるの汀に寄せたり返したりした。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
むかしから丸年の者は歯並みがいいので笛吹きに適しているとかいう俗説があるが、この喜兵衛も二月生れの丸年であるせいか、笛を吹くことはなかなか上手で、子供のときから他人も褒める、親たちも自慢するというわけであったから、その道楽だけは今も捨てなかった。
— 岡本綺堂 『青蛙堂鬼談』 青空文庫
八橋は明けて十九になろうという若い遊女で、しもぶくれのまる顔で、眼の少し細いのと歯並みの余りよくないのとを疵にして、まず仲の町張りとしてひけを取りそうもない上品な花魁であった。
— 岡本綺堂 『籠釣瓶』 青空文庫
手の平に小雨かかると云ふことに白玉の歯を見せて笑ひぬ 表情沢山な歯並みの美しい巴里女は、一面耽美主義者でもある作者の大に気に入つたらしくこの歌などその一つのあらはれであらう。
— 平野萬里 『晶子鑑賞』 青空文庫
西洋でもあまり口の締りの悪いのや歯並みの乱れて飛出したものを見なかったが、もっともわれわれは多くの日本人にのみ接しているがためかどうか知らないが、とくに日本人の口もとに締りのよくないのが多くはないかと思う。
— 小出楢重 『めでたき風景』 青空文庫