悸々
悸々
名詞
標準
文例 · 用例
」と何か氣怯のする躰で悸々しながらいふ。
— 三島霜川 『青い顏』 青空文庫
吁、私は今だに胸が悸々して、後から追掛けられるやうな気持がして、何だか落着かなくて可けない」「まあ何でも、かうして約束通り逢へりや上首尾なんだ」「全くよ。
— 尾崎紅葉 『金色夜叉』 青空文庫
また、日常の瑣細な様々な不安心などは、一瞬間のハズミに目醒しい突風に煽られて五体諸共奈辺にか飛び去り、吻ツと白々しい峯の頂きに休んだ、かと思ふと忽ち断崖から脚を滑らせる思ひにゾツとして慌てゝ我に返ると、始めから悸々と凹めた手の平に息ばかり吹きかけてゐた自分に気附くのであつた。
— 牧野信一 『毒気』 青空文庫
私が遠慮なく襖をあけると彼は、他の者でなくつて好かつたといふ風に悸々した眼をあげて、「早く入つてしめろよ。
— 牧野信一 『毒気』 青空文庫
」と彼が、ほき出すと彼女は、酷く悸々とした。
— 牧野信一 『小川の流れ』 青空文庫
あゝいふ自分の妄想は、やつぱり実現させないに限るんだ――などゝ彼は、思ひながらも、お園たちの前には、厳格な母親の言葉に悸々してゐる風を装つたり、或ひは、厳格ではあるが心の温い母親に、いくつになつても甘へてゐる好人物の悴である、といふ風な思ひ入れを示すやうな薄ら笑ひを浮べてゐた。
— 牧野信一 『「悪」の同意語』 青空文庫
私は酷くテレ臭い格構で石のやうにギゴチなく凝然としてゐるばかりであつたが(私は正当な乗手になつて前方を視詰めてゐるわけにも行かなかつた、羞み笑ひを浮べる程の余裕もない、と云つて余り悸々するのも自尊心に関した。
— 牧野信一 『鱗雲』 青空文庫
」「だつて今日だけぢやないんだぜ、今迄何れ位ひ彼処の蜜柑をとつたか解りはしないぜ、先月なんかはあんなに沢山売つたりしたぢやないか、いくら今度の持主が人が好いと云つたつて売つたことが解つたら……」正吉だけが酷く悸々としてゐた。
— 牧野信一 『村のストア派』 青空文庫