幻辞.com

苦辛

くしん
名詞
1
標準
文例 · 用例
三十二 もとより自ら進んでも、かくはなるべき運命であったろうけれども、さまでとはさすがに思い懸けなかった、積年の憂苦辛酸、一|日の安き暇もないので、お絹は身も心も疲れ果てて、その一月ばかり前から煩い出し、床に就いて足腰の自由が利かなくなると、夫|狂犬源兵衛は屋外にこれを追出した。
泉鏡花 湯島詣 青空文庫
)幸に我は平生多く書を讀まざりしかば、此物語に引き入れらるゝ虞なく、詩趣ゆたかなる四圍の光景は、十分に我心胸に徹して、平生の苦辛はこれによりて全く排せられ畢ぬ。
IMPROVISATOREN 即興詩人 青空文庫
彼等がさういふ苦辛の間に次の日の身體の疲れを犧牲にしてまでも僅な時間を相對して居ながら互の顏も見ることが出來ないで低く殺した聲にのみ滿足する外に、彼等は林の中に放たれた時想ひ想はぬ凡てが只管に甘い味を貪るのである。
長塚節 青空文庫
古来苦辛してこれを漢名に当てたは『古今要覧稿』巻五一五から五二四までに見ゆ。
馬に関する民俗と伝説 十二支考 青空文庫
その頃まで邦産なしと心得輸入品を用いおったが、ようやく右の地で捜し出たらしく、古人苦辛のほど察すべし。
馬に関する民俗と伝説 十二支考 青空文庫
されどその心性人に類せる点多きは真に驚嘆すべし、ダーウィンは猴の情誼厚きを讃め、あるアメリカの猴がその子を苦しむる蠅を払うに苦辛し、手長猿が水流中に子の顔を洗うを例示し、北アフリカの某々種の猴どもの牝はその子を喪うごとに必ず憂死し、猴の孤児は他の牝牡の猴必ずこれを養い取って愛撫すといった。
猴に関する伝説 十二支考 青空文庫
『八犬伝』もまた末尾に近づくにしたがって強弩の末|魯縞を穿つあたわざる憾みが些かないではないが、二十八年間の長きにわたって喜寿に近づき、殊に最後の数年間は眼疾を憂い、終に全く失明して口授代筆せしめて完了した苦辛惨憺を思えば構想文字に多少の倦怠のあるは止むを得なかろう。
内田魯庵 八犬伝談余 青空文庫
が、自分のような鈍感者では到底|味う事の出来ない文章上の微妙な説を聞いて大いに発明した事もしばしばあったし、洗練|推敲肉|痩せるまでも反覆|塗竄何十遍するも決して飽きなかった大苦辛を見て衷心嘆服せずにはいられなかった。
内田魯庵 二葉亭余談 青空文庫