隠家
おか
名詞
標準
文例 · 用例
しかし義理がありますから、必ずこんな処に隠家があると、町へ帰っても言うのではありません、と蒼白い顔して言い聞かす中に、駕籠が舁かれて、うとうとと十四、五|町。
— 泉鏡花 『薬草取』 青空文庫
間の悪さは、馬蛤貝のちょうど隠家。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
梓は幾ほどもなく仏文の手紙を得て、この隠家を出て、再び寄宿舎の卓子にバイロンの詩集を繙いて粛然とする身になったが、もとより可懐しい天神下はますます床しいものと成り増ったのである。
— 泉鏡花 『湯島詣』 青空文庫
朝参詣二十四 梓が大学の業を卒えて、仏文の手紙の姫、年紀は二ツ上の竜子に迎えられて、子爵の家を嗣ぐ頃には、地主の交替か、家主の都合か、かの隠家の木戸は釘附の〆切となって、古家の俤も偲れなくなった。
— 泉鏡花 『湯島詣』 青空文庫
宝の山を暗まぎれ、首領の隠家に泳がそうと、※のかかる巌陰に艪づかを掴んで、白髪を乱して控えたのは、崖の小屋の総六で、これが明方|名告って出た。
— 泉鏡花 『わか紫』 青空文庫
私は八方|摸索の結果、すがり附くべき一茎の藁をも見出し得ないで、已むことなく覚束ない私の個性――それは私自身にすら他の人のそれに比して、少しも優れたところのない――に最後の隠家を求めたに過ぎない。
— 有島武郎 『惜みなく愛は奪う』 青空文庫
笛の音の類、朝立ちの駅路の鈴、訪ふ人もなき隠家のべるの釦のほのかに白き、小夜ふけてきくりんのたま。
— 北原白秋 『第二真珠抄』 青空文庫
須磨子は三年前に飫肥へ往ったので、仲平の隠家へは天野家から来た謙助の妻|淑子と、前年八月に淑子の生んだ千菊とがついて来た。
— 森鴎外 『安井夫人』 青空文庫