谷道
たにみち
名詞
標準
文例 · 用例
左山中|道、右桂谷道、と道程標の立った追分へ来ると、――その山中道の方から、脊のひょろひょろとした、頤の尖った、痩せこけた爺さんの、菅の一もんじ笠を真直に首に据えて、腰に風呂敷包をぐらつかせたのが、すあしに破脚絆、草鞋穿で、とぼとぼと竹の杖に曳かれて来たのがあった。
— 泉鏡花 『みさごの鮨』 青空文庫
この暗闇な坂を下りて、細い谷道を伝って、茗荷谷を向へ上って七八丁行けば小日向台町の余が家へ帰られるのだが、向へ上がるまでがちと気味がわるい。
— 夏目漱石 『琴のそら音』 青空文庫
坂を下り切ると細い谷道で、その谷道が尽きたと思うあたりからまた向き直って西へ西へと爪上りに新しい谷道がつづく。
— 夏目漱石 『琴のそら音』 青空文庫
これより西行菴へ下る谷道なりといふ。
— 島崎藤村 『山家ものがたり』 青空文庫
「暦」によって、働いて生きる人々の清潔で勤勉な人生の語りてとしてあらわれた壺井栄が「暦」の続篇としての性格をもっている「渋谷道玄坂」をかき、その系列として「妻の座」を生んだことには、軽く通りすぎてしまうことのできない意味がみとめられる。
— 宮本百合子 『婦人作家』 青空文庫
たそがれて峽のまちを吾が自動車ひたに走りぬ愉しかりけり山鳩の啼く谷道の土ほこり花火と散りてわれなつゝみそ このやうな歌二ツ出來たのですが、下手ながら、歌はずにはゐられないやうないゝ風景です。
— 林芙美子 『大島行』 青空文庫
菓子折は当日午後二時頃渋谷道玄坂の青木堂と云う菓子屋で求めたもので、買った人間の風采は岩見に酷似していた。
— 甲賀三郎 『琥珀のパイプ』 青空文庫
診療から帰った友が徹夜で看病してくれて、夜が明ければまた灼熱の谷道を、一日平均八キロの行程を、相変わらず家から家へ、地区から地区へと巡回するのだった。
— 永井隆 『長崎の鐘』 青空文庫