拠処
よんどころところ
名詞
標準
文例 · 用例
拠処なく物を云うにも、今までの無遠慮に隔てのない風はなく、いやに丁寧に改まって口をきくのである。
— 伊藤左千夫 『野菊の墓』 青空文庫
拠処なく苦笑しながら、下女を呼んで、「森本さんの御膳もここへ持って来るんだ」と云いつけて、酒を命じた。
— 夏目漱石 『彼岸過迄』 青空文庫
しかし今日は無拠処差支えがあって出られぬ、いずれ永日御面晤を期すという端書があったので、やっと安心して、これなら心置きなく首が縊れる嬉しいと思った。
— 夏目漱石 『吾輩は猫である』 青空文庫
それにつけて、この頃、綾子刀自の素性のことについて、いろいろ噂を聞いたり、また新聞などで見たりしますと、元、料理屋の女中であったなど、誰々の妾であったなどというようなことが伝えられているが、そういうことは皆間違いで一つも拠処がない。
— 大隈綾子刀自の思い出 『幕末維新懐古談』 青空文庫
大学とはそこで個別性の最後の拠処でもあったのである。
— 中井正一 『蓄音器の針』 青空文庫
拠処なく留守の白井は一人縁側に腰をかけ、新聞をよんでゐると、隣の門口で郵便屋の声がしながら誰も受取りに出る様子がない。
— 永井荷風 『来訪者』 青空文庫
派出婦をしていた頃男に押えつけられれば拠処なくその意に従った。
— 永井荷風 『ひかげの花』 青空文庫
自分はいまは一年に三回か四回の上京も覺束ないのであるが、その頃はその兩三年以來頻りに上京して悠遊したことであつたのだから、速く先生のもとに就いたならば更に大いに利益したことであらうに、惜しいことをしたと思ふこともあつたが、此の時はじめて思ひ切つて行くことに成つた位なのだから據處ないことである。
— 長塚節 『竹の里人〔二〕』 青空文庫