歯痒
はがゆ
名詞
標準
文例 · 用例
大したことでもないけれど、家庭的な悲劇といふものを何時も目の前にしてゐなければならない私は、そしてその悲劇なるものが常に我々のセンチメントのために悲劇であると観た私は、自分が人一倍感傷家であるといふことが歯痒ゆかつた。
— 中原中也 『その頃の生活』 青空文庫
」 その、呑気さうな言葉付が彼女には歯痒かつたが、その社長が、自分を可なり大事な者に考へてゐたことがその口振で分ると、彼女は急に、先刻解雇者の名前をみた時から忘れてゐた、それは若い女らしい、それを頭に浮べれば乳房のくらげのやうに伸縮し始める、その理想を再生させることが出来た。
— ――飜弄さる 『蜻蛉』 青空文庫
愚図々々すれば、貴郎例に似合わない、きりきりなさいなね……とお蔦が歯痒がる。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
鰯を育てて鯨にするより歯痒い段の行止り。
— 泉鏡花 『海神別荘』 青空文庫
もっとも東の雛壇をずらりと通して、柳桜が、色と姿を競った中にも、ちょっとはあるまいと思う、容色は容色と見たけれども、歯痒いほど意気地のない、何て腑の抜けた、と今日より十段も見劣りがしたって訳は。
— 泉鏡花 『南地心中』 青空文庫
その代り、妻が小心で正直すぎるために、清吉は、他人から損をかけられたり儲けられる時に、儲けそこなって歯痒ゆく思ったりすることがたび/\あった。
— 黒島傳治 『窃む女』 青空文庫
あそこまで行かねば嘘だと、いつも歯痒く思う。
— 山中貞雄 『気まま者の日記』 青空文庫
智慧のない奴等ばかりだ」 鼈四郎は、こう呟くと、歯痒いような、また得意の色があった。
— 岡本かの子 『食魔』 青空文庫