寞
寞
名詞
標準
文例 · 用例
荷物といふは大八に唯一くるま來りしばかり、兩隣にお定めの土産は配りけれども、家の内は引越らしき騷ぎもなく至極寂寞とせしものなり。
— 樋口一葉 『うつせみ』 青空文庫
物みなは歳日と共に亡び行く――郷土望景詩に歌つたすべての古蹟が、殆んど皆跡方もなく廢滅して、再度また若かつた日の記憶を、郷土に見ることができないので、心寂寞の情にさしぐんだのである。
— 萩原朔太郎 『宿命』 青空文庫
今ぞ世は驚かれぬるパン神の領かたまたま堪へぬ寂寞に。
— 萩原朔太郎 『短歌』 青空文庫
寂寞と昼間を鮓のなれ加減 鮓は、それの醋が醗酵するまで、静かに冷却して、暗所に慣らさねばならないのである。
— 萩原朔太郎 『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
秋の部門を出て故人に逢ひぬ秋の暮 秋風|落寞、門を出れば我れもまた落葉の如く、風に吹かれる人生の漂泊者に過ぎない。
— 萩原朔太郎 『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
例えばこの句の場合で、「酒屋」とか「謡」とかいう言葉を使えば、句の情趣が現実的の写生になって、句のモチーヴである秋風落寞の強い詩的感銘が弱って来る。
— 萩原朔太郎 『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
暖簾をかけた質屋の店も、既に戸を閉めてしまったので、万象|寂として声なく、冬の寂寞とした闇の中で、孤独の寒さにふるえながら、小さな家々が眠っている。
— 萩原朔太郎 『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
寂寞の中のかすかな物音ほど寂寞を高めるものはない。
— 有島武郎 『小さき影』 青空文庫