擦
擦
名詞
標準
文例 · 用例
短歌が、ただ擦過するだけの謂はば哀感しか持たないのは、それを作す人にハーモニーがないからだ。
— 中原中也 『河上に呈する詩論』 青空文庫
街道を折れて、少し下り坂になる道をスタコラと歩いてゆくと、街道でしてゐた豆腐屋の喇叭の音は急に聞えなくなり、道の傍の、森の葉擦の音に私は淋しくなるのであつた。
— ――不真面目なわが心…… 『その一週間』 青空文庫
林の黄昏は擦れた母親。
— 中原中也 『山羊の歌』 青空文庫
疲労の足を引き擦って、石壁の上に登りついたとき、眼は先ず晶々|粲々として、碧空に輝きわたる大雪田、海抜三千百八十九|米突の高頂から放射して、細胞のような小粒の雪が、半ば結晶し、半ば融けて、大気を含んだ、透明の泡が、岩の影に紫色を翳しているのに、眩ゆくなるばかりに駭いた、南方八月の雪!
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
レールに近く養蚕広告のペンキ塗の看板が、鉛のような鉱物性の色をして、硬く平ったく烈しい日の光に向って立っていたが、汽車と擦れ違いさまに、仆れそうになって、辛くも踏み止まった。
— 小島烏水 『谷より峰へ峰より谷へ』 青空文庫
谷風がさやさやと、川楊の葉に衣擦れのような音をさせて通行する、雲はずんずん進行して、山の緑は明るくなったり、暗くなったりする。
— 小島烏水 『谷より峰へ峰より谷へ』 青空文庫
雪が氷河になると、その山側を擦り下りる圧力で山体を銷磨して行く。
— 小島烏水 『高山の雪』 青空文庫
氷河は勿論だが、雪|辷りが山側を磨擦する時は、富士山の剣丸尾熔岩流のように、長い舌の形によって、その舐めた痕跡が残る。
— 小島烏水 『高山の雪』 青空文庫