左乳
ひだりちち
名詞
標準
文例 · 用例
大島のかさねを黒いコートでつつんで、リスの毛皮を左乳に垂らした、頬紅をささない蒼白な厚化粧の女が、いつも一点をみつめ前後の気配を感ずる都会の女の乗った車が、中央九番街のクロス・ワード模様の東洋銀行のまえで停止すると、彼女のフェルトの草履が石畳を踏んで衣服の黒い裾裏が地上を流れる風にはねかえった。
— 吉行エイスケ 『女百貨店』 青空文庫
しかもその切り口、よく俗に袈裟がけということを言うがまさにそれで、右の肩から左乳下へかけてばらりずんとただの一太刀に斬り下げて見事二つになった胴体は左|傍腹の皮肌一枚でかろうじて継がっていた。
— 霙橋辻斬夜話 『早耳三次捕物聞書』 青空文庫
当時のことだから新刀試し腕試し、辻斬は珍しくなかったが、そのなかに一つ、右肩から左乳下へかけての袈裟がけ斜一文字の遣口だけは、業物と斬手の冴えを偲ばせて江戸中に有名になっていた。
— 霙橋辻斬夜話 『早耳三次捕物聞書』 青空文庫
右の肩から左乳下へざんぐり一太刀、ようがす。
— 霙橋辻斬夜話 『早耳三次捕物聞書』 青空文庫
そつと死體を起して見ると、左乳の下に刀で突いたのが致命傷で、如何にも美事な手際ですから、お富は聲も立てずに死んだことでせう。
— 碁敵 『錢形平次捕物控』 青空文庫
傷は後ろから浴衣越しに突いた一と太刀、左乳の下へ突き拔けるほどの凄まじいもの。
— 捕物仁義 『錢形平次捕物控』 青空文庫
死裝束の晴着に換へて、白布で膝を結へ、香まで焚いて、何處から持出したか、女持の懷劍、左乳の下を一とゑぐり、武士も及ばぬ見事な最期だつたのです。
— 和蘭カルタ 『錢形平次捕物控』 青空文庫
一と通り現場を調べると、雨戸は確かに主人山名屋五左衛門が開けたもの、寝巻の浴衣を着たまま、人を迎えたか送ったか、ともかく、縁側に立ってうっかり月か何か眺めたところを、沓脱にいた曲者が、下から脇差で、一と思いに左乳の下を突き上げたものです。
— お篠姉妹 『銭形平次捕物控』 青空文庫