絨
絨
名詞
標準
文例 · 用例
やさしい五月の死びとよわたしは緑金の蛇のやうにのたうちながらねばりけのあるものを感觸しさうして「死」の絨毯に肌身をこすりねりつけた。
— 萩原朔太郎 『青猫』 青空文庫
絨氈を踏むやうな快感が履物の底に感じられる。
— 有島武郎 『春』 青空文庫
私の机上には、有り合せの玻璃瓶に、菜の花が投げ込んである、これは弟に捜させて、採って来たものである、天鵞絨のように、手障りの柔らかな青い葉が、互い違いになって、柱のような茎を取りまいて居る、此柱の頭から、莟みが花傘なりに簇がって、蛹虫の甲羅のように、小さく青く円くなっている。
— 小島烏水 『菜の花』 青空文庫
尻に敷いた褥は、可愛らしい高山植物で、チングルマの小さい白花、アカノツカサクラの赤い花などが、絨氈の斑紋になって、浮き上る、焚火の影に、鮮やかな織目を見せる。
— 小島烏水 『白峰山脈縦断記』 青空文庫
油紙の天幕には、チロチロと漣の刻むような光りがする、岩石の間に、先刻捨てた尻拭き紙までが、真赤にメラメラと燃えている、この窪地一帯に散乱する岩石の切れ屑は、柔らかく圭角を円められて、赤い天鵝絨色が潮しはじめた。
— 小島烏水 『谷より峰へ峰より谷へ』 青空文庫
十幾階の角形の建築物や、工場の煙突の上に、白蝶の翼をひろげたように、雪の粉を吹いて、遠くはこんもりと黒く茂った森、柔かい緑の絨氈を畝ねらせる水成岩の丘陵、幾筋かの厚襟をかき合せたカスケード高原の上に、裳裾を引くこと長く、神々しくそそり立つ姿であった。
— 小島烏水 『不尽の高根』 青空文庫
今のような裾野となって、富士の登山が一しお悦ばれるのは、絨氈を布く緑青の草と、湿分を放散する豊富な濶葉樹林とにあろう。
— 小島烏水 『不尽の高根』 青空文庫
黎明来ると共に暗黒の悪者どもは忽ち姿を消す、そのさまあたかも絨毯の四隅を取らえてこれより塵を払い退けるが如くであるというのである。
— 内村鑑三 『ヨブ記講演』 青空文庫