汞
こう
名詞
標準
文例 · 用例
室内を横伝い、まだ何か便り無さそうだから、寝台の縁に手をかけて、腰を曲げるようにして出たが、扉の外になると、もう自分でも足の確なのが分って、両側のそちこちに、白い金盥に昇汞水の薄桃色なのが、飛々の柱燈に見えるのを、気の毒らしく思うほど、気も爽然して、通り過ぎた。
— 泉鏡花 『婦系図』 青空文庫
それが丁度そのばんの八時半ごろ、るつぼの中にできたすきとほったものは、実は昇汞といふいちばんひどい毒薬でした。
— 宮沢賢治 『よく利く薬とえらい薬』 青空文庫
ひどいのになると一日に五六度オキシフルか、昇汞水で手を消毒しないと、落付いて仕事が出来ぬというようなのがある。
— 岡本かの子 『良人教育十四種』 青空文庫
昇汞水の金盥と並べた、室外の壁の際の大きな器に、氷嚢から氷が溶けたのを、どくどくと開けていました。
— 泉鏡花 『式部小路』 青空文庫
看病夫は二時間おきぐらゐに何千倍かの昇汞水とおもはれる生温かい液體で目のなかを洗つてくれた。
— 島木健作 『盲目』 青空文庫
お末の奴、今朝あぶなく昇汞を飲む所さ……あれを飲んで居て見ろ、今頃はもうお陀仏様なんだ」 とさも可愛げにお末の顔をぢつと見てくれた。
— 有島武郎 『お末の死』 青空文庫
医師はやがてお末の額に手をあてゝしげ/\と患者を見て居たが鶴吉を見返つて、「昇汞をどの位飲んだんでせう」 と聞いた。
— 有島武郎 『お末の死』 青空文庫
毒薬と云へばあの俺がある種類の予防に納つて置いたあの甘汞を、何と間違へたか、蒼くなつて慌てて秘して了つた俺の弟はほんとに可哀いい道化ものだ。
— 北原白秋 『桐の花』 青空文庫