遁
遁
名詞
標準
文例 · 用例
元来日本文化は、上古の奈良朝時代までは、海外雄飛の建国時代であったため、人心が自由で明るく、浪漫的の青春性に富んでいたのであるが、その後次第に鎖国的となり、人民の自由が束縛されたため、文学の情操も隠遁的、老境的となり、上古万葉の歌に見るような青春性をなくしてしまった。
— 萩原朔太郎 『郷愁の詩人 与謝蕪村』 青空文庫
惡しきものに逢ひけるよ、と思ふまもなく、つかつかと歩みよりて、なつかしげに物言はるるに、こはけれど遁れゆくべきにあらず。
— 萩原朔太郎 『花あやめ』 青空文庫
彼の文学は、本質的に我が『方丈記』や『徒然草』の類と同じく、仏教的無常観によった『遁世者の文学』であり、ヘルン自身がまた現実の『遁世者』であった。
— 室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ 『小泉八雲の家庭生活』 青空文庫
寺の住持になって世を隠遁し、読経と墓掃除に余生を送りたいといった彼の言葉は、決して一時の戯れではなく、彼の心の無限の悲哀を告白した言葉であった。
— 室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ 『小泉八雲の家庭生活』 青空文庫
訪問者も絶えて無いので何だか昔の厭人病者の物わびしい遁世生活を思ひます。
— 萩原朔太郎 『田端に居た頃』 青空文庫
あの短かく花やかだつた詩壇の生活を去つてから、氏は靜岡の田舍にかくれ、靜かに茶ノ湯などして隱遁の生活を送つて居たのだ。
— 萩原朔太郎 『蒲原有明氏の近況を聞いて』 青空文庫
後世の日本文學史上に特筆さるべき一世の大詩人が、狹い田舍町に於て全く人に知られず住み、世捨人の侘しい隱遁生活をしてゐることを考へると、それだけでも自分は無量の感慨にうたれるが、さらに蒲原氏によつて直接訴へられた所を傳聞するに及び、自分は押へられない憂鬱と憤怒に驅られた。
— 萩原朔太郎 『蒲原有明氏の近況を聞いて』 青空文庫
強てもそれをまぎらす爲めに私達は憎んで見たり愛して見たりして、本統の人の姿から間に合はせに遁れようとしてゐるのだ。
— 有島武郎 『小さき影』 青空文庫