這上
這上
名詞
標準
文例 · 用例
あの渦んとこで、生きてた方の男は、一人で泳いで這上がったって、言ってましたよ。
— ――生きる為に―― 『山谿に生くる人々』 青空文庫
艫へ這上りそうな形よ、それで片っぺら燃えのびて、おらが持っている艪をつかまえそうにした時、おらが手は爪の色まで黄色くなって、目の玉もやっぱりその色に染まるだがね。
— 泉鏡花 『海異記』 青空文庫
――其の内に、右の音が、壁でも攀ぢるか、這上つたらしく思ふと、寢臺の脚の片隅に羽目の破れた處がある。
— 泉鏡太郎 『人魚の祠』 青空文庫
やがて、沼の縁へ追迫られる、と足の甲へ這上る三俵法師に、わな/\身悶する白い足が、あの、釣竿を持つた三|人の手のやうに、ちら/\と宙に浮いたが、するりと音して、帶が辷ると、衣ものが脱げて草に落ちた。
— 泉鏡太郎 『人魚の祠』 青空文庫
その反対の、山裾の窪に当る、石段の左の端に、べたりと附着いて、溝鼠が這上ったように、ぼろを膚に、笠も被らず、一本杖の細いのに、しがみつくように縋った。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
ただ船虫の影の拡ったほどのものが、靄に沁み出て、一段、一段と這上る。
— 泉鏡花 『貝の穴に河童の居る事』 青空文庫
ト斜に、がッくりと窪んで暗い、崕と石垣の間の、遠く明神の裏の石段に続くのが、大蜈蚣のように胸前に畝って、突当りに牙を噛合うごとき、小さな黒塀の忍び返の下に、溝から這上った蛆の、醜い汚い筋をぶるぶると震わせながら、麸を嘗めるような形が、歴然と、自分が瞳に映った時、宗吉はもはや蒼白になった。
— 泉鏡花 『売色鴨南蛮』 青空文庫
さあ負され、と蟹の甲を押向けると、いや、それには及ばぬ、と云った仁右衛門が、僧の裾を啣えた体に、膝で摺って縁側へ這上った。
— 泉鏡花 『草迷宮』 青空文庫