蹴込み
けこみ
名詞
標準
riser
文例 · 用例
お祖母さんが最後に「よいとな」と大きく調子をとって、車台へ登ると蹴込みに敷いてある獅子の毛皮のようなもじゃもじゃした布の上に「つぁらっ」と擦れる音がして、新らしい後歯がかすかに刷毛でのべた様な赤土のあとをつけた。
— 岡本かの子 『かやの生立』 青空文庫
眞夏、三宅坂をぐん/\上らうとして、車夫が膝をトンと支くと蹴込みを辷つて、ハツと思ふ拍子に、車夫の背中を跨いで馬乘りに留まつて「怪我をしないかね。
— 泉鏡太郎 『麻を刈る』 青空文庫
」「何んでも構わぬ、私は急ぐに……」と後向きに掴まって、乗った雪駄を爪立てながら、蹴込みへ入れた革鞄を跨ぎ、首に掛けた風呂敷包みを外ずしもしないで揺っておく。
— 泉鏡花 『歌行燈』 青空文庫
そしていきなりそこに待ち合わしていた人力車の上の膝掛けをはぐって、蹴込みに打ち付けてある鑑札にしっかり目を通しておいて、「わたしはこれから歩いて行くから、この手紙をここへ届けておくれ、返事はいらないのだから……お金ですよ、少しどっさりあるから大事にしてね」 と車夫にいいつけた。
— 有島武郎 『或る女』 青空文庫
前掛けを器用にはねのけて、蹴込みから飛び降りたところを見ると、背のすらりと高い細面のりっぱな人であった。
— 夏目漱石 『三四郎』 青空文庫
その車を挽いて行った車夫が怪しんで強請りかけると、又作はおどろかず、車の蹴込みの板を取って車夫をぶち殺して立ち去る。
— 岡本綺堂 『寄席と芝居と』 青空文庫
これなぞは特別の構造と見てよく、普通中仙道筋の問屋場は二間幅ほどの表入口に三尺の板庇をつけ、入口は障子、敷居下は羽目板にして蹴込みを取りつけ、宿役人の詰所の方も二間四方ばかりあつて、板縁の押入れが取りつけてあつたものらしい。
— 島崎藤村 『桃の雫』 青空文庫
女が包みと行李とを蹴込みに積んで、ある晩方向島の方へ送られて行くと、間もなくお鳥がやって来た。
— 徳田秋声 『足迹』 青空文庫