蕩子
とうし
名詞
標準
文例 · 用例
アヌンチヤタは尋常の歌妓に非ずして、その妙藝は現に天下の仰ぎ望むところなりと雖、われ往いてこれに從はゞ、その形迹世の蕩子と擇ぶことなからん。
— IMPROVISATOREN 『即興詩人』 青空文庫
言ふところはドン・ホアンを欺く蕩子なる如くにして、まことは聖アントニウスの誘惑を峻拒する氣概あり。
— IMPROVISATOREN 『即興詩人』 青空文庫
亭主が此塲末の不景氣な床屋で、宅には小供が三人まであるが、其等は一切人の好い亭主に敲つけておいて、年中近所の放蕩子息や、若い浮氣娘と一緒になつて、芝居の總見や、寄席入りに、浮々と日を送り、大師詣とか、穴守稻荷とか、乃至は淺草の花屋敷とか、團子坂の菊とか云ふと、眞先に飛出して騷※る。
— 徳田秋聲 『絶望』 青空文庫
養父独美が視ること尋常|蕩子の如くにして、これを逐うことを惜まなかったのは、恩少きに過ぐというものではあるまいか。
— 森鴎外 『渋江抽斎』 青空文庫
照葉狂言は嘉永の頃大阪の蕩子四、五人が創意したものである。
— 森鴎外 『渋江抽斎』 青空文庫
例の放蕩子息が跪いて泣いた時、かれはその過去の罪悪および苦悩をば生涯において最も美しく神聖なる時となしたのであると基督がいわれるであろうといっている。
— 西田幾多郎 『善の研究』 青空文庫
彼が妻の懐に啜泣しても足りないほどの遣瀬ないこころを持ち、ある時は蕩子戯女の痴情にも近い多くのあわれさを考えたのもそれは皆、何事も知らずによく眠っているような自分の妻の傍に見つけた悲しい孤独から起って来たことであった。
— 島崎藤村 『新生』 青空文庫
この心もちに安住するは、余り善い事ではないかも知れず、云はば芸術上の蕩子ならんか。
— 芥川龍之介 『雑筆』 青空文庫