空谷
くうこく
名詞
標準
lonely or uninhabited valley
文例 · 用例
その靴は霜のいと夜深きに、空谷を鳴らして遠く跫音を送りつつ、行く行く一番町の曲がり角のややこなたまで進みけるとき、右側のとある冠木門の下に踞まれる物体ありて、わが跫音に蠢けるを、例の眼にてきっと見たり。
— 泉鏡花 『夜行巡査』 青空文庫
」 これ空谷の跫音なり。
— 泉鏡花 『取舵』 青空文庫
さういふ時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向つて吼える。
— 中島敦 『山月記』 青空文庫
そういう時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向って吼える。
— 中島敦 『山月記』 青空文庫
さうして自分が自分の職務に對し兎角興味を有ち得ない事、誰一人趣味を解する者なき片田舍の味氣ない事、さうしてる間に豫々愛讀してゐる朝日新聞の歌壇の設けられたので空谷の跫音と思つたといふ事、近頃は新聞が着くと先づ第一に歌壇を見るといふ事、就いては今後自分も全力を擧げて歌を研究する積だから宜しく頼む。
— 石川啄木 『歌のいろ/\』 青空文庫
空谷に跫音をきいたやうな気がした。
— 田山録弥 『間居』 青空文庫
その重々しい文学士が下等新聞記者の片手間仕事になっていた小説――その時分は全く戯作だった――その戯作を堂々と署名して打って出たという事は実に青天の霹靂といおう乎、空谷の跫音といおう乎、著るしく世間を驚かしたものだ。
— ――坪内逍遥―― 『明治の文学の開拓者』 青空文庫
しかし、零細な、身辺小説の中にあって、この老大家の精進はたしかに空谷の足音であった。
— 平林初之輔 『昭和四年の文壇の概観』 青空文庫