蒸し立て
むしたて
名詞
標準
文例 · 用例
あの頃は蒸し立てのプリンのようだった十代のオレの脳味噌は、トランジスタ・ラジオから流れてくるリバプール・サウンドにびんびん揺れた。
— 富田倫生 『青空のリスタート』 青空文庫
何ぜかといえば、この宿場の猫背の馭者は、まだその日、誰も手をつけない蒸し立ての饅頭に初手をつけるということが、それほどの潔癖から長い年月の間、独身で暮さねばならなかったという彼のその日その日の、最高の慰めとなっていたのであったから。
— 横光利一 『蠅』 青空文庫
おまけに、澱みきった新鮮でない熱気に蒸したてられるので、花粉は腐り、葉や幹は朽ち液化していって、当然そこから発酵してくるものには、小動物や昆虫などの、糞汁の臭いも入り混って、一種堪えがたい毒気となって襲ってくるのだった。
— 小栗虫太郎 『白蟻』 青空文庫
宿の主人が蒸したての物を親切に勧めてくれたが、一口試みただけで、とても食べられる味の物でなかつた。
— 附 満蒙の歌 『満蒙遊記』 青空文庫
店の端先へ出て旦那もお内儀も見ている処へ抜身を提げた泥だらけの侍が駈込んだから、わッと驚いて奥へ逃込もうとする途端に、蒸したての饅頭の蒸籠を転覆す、煎餅の壺が落ちる、今坂が転がり出すという大騒ぎ。
— 三遊亭圓朝 『敵討札所の霊験』 青空文庫
蒸籠を下ろして、蒸したてのホヤホヤと煙の立つのを、餓えた腹で見た竜之助は、飛びついて頬ばりたいほどに思う。
— 壬生と島原の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
洲崎の番所では蒸したてのジャガタラ芋の湯気を吹き吹きお相伴になれようものを、ここまで来てしまっては、今の夕飯が覚束ないのみでなく、今晩の泊る所もわかるまい。
— めいろの巻 『大菩薩峠』 青空文庫