裾山
すそやま
名詞
標準
文例 · 用例
二荒の裾山樹々の梢に鶯の今をさかりと鳴く声いとめずらし。
— 伊藤左千夫 『滝見の旅』 青空文庫
比叡の峰つゞきの裾山が比良岳の方に向つて走つてゐる山麓の村里を過ぎ插秧のをはつたばかりの水田や青蘆の生ひ茂つた汀つたひの街道を走つていつた。
— 琵琶湖めぐり 『湖光島影』 青空文庫
柳沢峠の中途まで登って振り向くと、襟を重ね合せたような裾山の上に富士の頂が見えた。
— 木暮理太郎 『奥秩父の山旅日記』 青空文庫
ちょうどここは、大蓮華の側壁百貫山と、三名引、毛勝の裾山とが、すれすれに額を突き合せた、その狭い廂合わいに当るのだ。
— 中村清太郎 『ある偃松の独白』 青空文庫
裾山は春のようにかすみながら、天は深々と澄んで、その間に富士は申さず、白峯三山、悪沢、赤石、聖などの尖頭が、あざやかに白光を放っていた。
— 中村清太郎 『ある偃松の独白』 青空文庫
今年(十六年)の五月下旬に、私は宿願のひとつ、御岳の春色を描かんため木曾に入り、しばらく黒沢口三合半、日ノ出滝の宿(当時ここが人の住む最高所)に籠って、裾山を緑に染め、七八合以上残雪に輝く、長城のような御山を仰ぎつつ、画作に従事していた。
— 中村清太郎 『ある偃松の独白』 青空文庫
里近い裾山にはまだ山桜が紅く、落葉松は銀緑の若葉に重味を加え、流水はゴボゴボ音をたてて畦にあふれ、農夫は女子供もまじって代掻きに懸命、畦道には枯芝の中に東菊が空をうつして碧く、茶を煮るか、そこらに焚火の煙が山風になびいて霞にとけ、鶯や黄びたきの声々……正に万象が冬眠から覚めて、活動期に入った趣きだ。
— 中村清太郎 『ある偃松の独白』 青空文庫