撒布
さんぷ
名詞
標準
文例 · 用例
今かりにどれかの一枚を絶版にして、天下に撒布されたあらゆる標本を回収しそのただ一枚だけを残して他はことごとく焼いてしまったとしたら、その残った一枚は少なくも数百円、相手により場合によっては一万円でも買い手があるであろう。
— 寺田寅彦 『地図をながめて』 青空文庫
毎日吹き捲くる疾風が其の遠い西山の氷雪を含んで微細に地上を掩うて撒布したかと思ふやうに霜が白く凝つて居た。
— 長塚節 『土』 青空文庫
雨が稀にしんみりと降つても西風は朝から一|日青い常緑木の葉をも泥の中へ拗切つて撒布らす程吹き募れば、それだけで土はもう殆んど乾かされるのである。
— 長塚節 『土』 青空文庫
その時私は広告ビラを心から憎んだ、そしてまた人間の顔を掩ふほどの馬鹿気て大きなビラの注文主を憎み、風の日のそのビラの撒布者をも憎んだことがあつた、いままた都会の舗石道で、同じやうなビラで靴を噛まれたのであつた。
— 小説 『小熊秀雄全集−15−』 青空文庫
ヘブリウの異伝には、アスモデウス身を隠してソロモン王の妃に通ぜしに、王その床辺に灰を撒布し、旦に鶏足ごとき跡を印せるを見て、鬼王の所為を認めたりという。
— 鶏に関する伝説 『十二支考』 青空文庫
砲弾、毒|瓦斯、鉛筆(仏軍飛行機が高空から撒布して行く短かい金属性の投矢の一種)等の負傷は一つも無い事です」「……よろしい……」 吾が意を得たりという風に云い放った軍医大佐はピタリ顔面の摩擦を中止した。
— 夢野久作 『戦場』 青空文庫
これが後の玄洋社の前身であったが、天下の形勢を憂慮する余り、近所界隈の畑や鶏舎を荒し、犬猫の影を絶ち、営所の堀の蟇を捕って来て、臓腑を往来に撒布するなぞ、乱暴狼藉到らざるなく、健児社の連中といえば、大人でも首を縮める程の無敵な勢力を持っていたものであった。
— 夢野久作 『近世快人伝』 青空文庫
六日、「市民に訴う」という今迄の詳しいイキサツを書いたビラ一万枚を撒布する。
— 小林多喜二 『不在地主』 青空文庫