走り井
はしりい
名詞
標準
文例 · 用例
尤も水本先生は少し先へ出発されるので、走り井の茶屋まで一同が送って行ったが、先生に兼て馴染の三本木芸子なども数人送って来て、酒宴が開かれてなかなか賑かであった。
— 内藤鳴雪 『鳴雪自叙伝』 青空文庫
そら寝の駈引 あれから一|刻ばかりたって、お綱は、すきや縮に小柳の引っかけ帯、髪もぞんざい結びに巻きなおし、まるで別人のようになって、「アア、せいせいした……」 と「走り井」と書いた団扇を片手に、ぶらぶら大津の方へあるいていた。
— 上方の巻 『鳴門秘帖』 青空文庫
逢坂山の下の走井――今でもその跡がちやんと残つてゐるが、その記事などはことにはつきりと目に見えるやうに描き出されてある。
— 田山録弥 『早春』 青空文庫
ああ、そうですか、左様でございましたか、しからば、その大谷風呂の方から先に……何とおっしゃる、そのあいだに有名な走井の泉があって、走餅を売っておりますから御賞翫くださいですって、よろしい、いただきましょう。
— 京の夢おう坂の夢の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
「有名な走井の水というのは、あなたのお家にあるのですか、旅の者ですが、一見させていただきたい」「おやすいことでおます、どうぞ、こちらへお入りやして」 女中に導かれるまでもなく、門からつい一足の右手は、花崗石の高さ三尺、径四尺ぐらいの井筒があって「走井」と彫ってある、そこから滾々と水を吹き上げている。
— 京の夢おう坂の夢の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
「ははあ、これが走井の水ですか、一杯頂戴――」 関守氏は柄杓を取って、うがいをして、呑みたくもない水をグッと一口試みてから、「で、走餅というのは、もうこの辺にございませんか」「ええ、もう、代が変りやはりまして」「そうですか、どうも有難う、お手数をかけました。
— 京の夢おう坂の夢の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
関守氏は走井のほかには、家の建前や庭のこしらえなどにはあまり心をひかれなかったものと見えて、そのまま辞して、早くも大谷風呂の前まで到着しました。
— 京の夢おう坂の夢の巻 『大菩薩峠』 青空文庫
それにしても、今日は関守氏、ことのほか艶福の日と見えて、走井の水をたずねた時は花売りの乙女――寒雪画伯の別荘で名所を見せてくれたのが極めて尋常ながら、これも年に於ては不足のない妙齢の処女、こんどこのところへ来て見ると、現われたお宮さんがすごいような丸髷の大年増ときている。
— 京の夢おう坂の夢の巻 『大菩薩峠』 青空文庫