渓向
けいむき
名詞
標準
文例 · 用例
渓向うの木立のなかでは瑠璃が美しく囀っていた。
— 梶井基次郎 『交尾』 青空文庫
渓向うもそそり立った岩の崖、うしろを仰げば更に胆も冷ゆべき断崖がのしかかっている。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
「困りましたネ、これでは立てませんネ」 渦を巻いて狂っている雨風や、ツイ渓向うの山腹に生れつ消えつして走っている霧雲を、僅かにあけた雨戸の隙間に眺めながら、朝まだきから徳利をとり寄せた。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
そしておりおり渓向うの山腹に大風の通る様な音を立てて大きな樹木の倒るるのが見えた。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
「ア、彼処を御覧なさい、あんなに大きい山葵沢が」 と呼ばれて見た渓向うのそれは、道で見て来たものより遥かに見ごとなものであった。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
二里あまりも登った頃、やがて我等三人はいま渓向うの山葵沢つづきに眺めて来たと同じい落葉樹林のなかへ歩み入った。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
昨今はよほど熊も少くなったが、まだまだ向うの、と我等の歩いている渓向うに大らかに峰を張って朝日を浴びた木深い山を指さしながら、霞沢岳などにはかなりの数が棲んでいるだろう。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫
「そうだ、今日あたりが丁度さかりずらよ、明日明後日となるとへエ散るだから」 私は雨ばかり続いた温泉宿の二階から其処の渓向うの山を毎日眺めていたのであったが、丁度昨日一昨日その長雨があがると同時にほんとに瞬く間に見まがうほどの紅葉の山と染まったのを見て驚いたのであった。
— 若山牧水 『みなかみ紀行』 青空文庫