溜め塗り
ためぬり
名詞
標準
文例 · 用例
不足があったら、親にいいなよ」 右からわめき、左からののしる声の間を、急がず遅れず溜め塗りご定紋入りのお駕籠をうたせて、格式どおりのお供人を従えながら、しずしずとさしかかってきたのは、だれでもない松平の御前でした。
— 献上博多人形 『右門捕物帖』 青空文庫
「あいつがもし湯から揚がったら、咳払いをして知らせるように、番台の奴に云いつけて置きましたから大丈夫です」 二重につつんだ風呂敷の中からは、一種の溜め塗りのような古い箱が二個あらわれた。
— 湯屋の二階 『半七捕物帳』 青空文庫
全体が溜塗りのようになっていて、角々には厚い金物が頑丈に打付けてございます。
— 岡本綺堂 『三浦老人昔話』 青空文庫
いやいや端然としてすわっているのは、決してそれらの武士ばかりではなくて、壮麗な床の間を背後にして、七人の武士と二十人余の武士と、そうして異国ふうの大棚とに、向かい合いながら部屋の奥に溜塗りの小型の見台を据えて、端坐している儒者ふうの、神々しいような老武士があった。
— 国枝史郎 『娘煙術師』 青空文庫
雨の日は広い宿屋じゅうがひっそりして、廊下に出ると、木端葺きの湯殿の屋根から白く湯気の立ち騰るのや崖下の渡廊下を溜塗りの重ね箱をかついだ束髪の菓子売りが、彼方の棟へ渡って行くのなどが見える。
— 宮本百合子 『夏遠き山』 青空文庫
石菖の水鉢を置いた※子窓の下には朱の溜塗の鏡台がある。
— 永井荷風 『妾宅』 青空文庫
お妾は抜衣紋にした襟頸ばかり驚くほど真白に塗りたて、浅黒い顔をば拭き込んだ煤竹のようにひからせ、銀杏返しの両鬢へ毛筋棒を挿込んだままで、直ぐと長火鉢の向うに据えた朱の溜塗の鏡台の前に坐った。
— 永井荷風 『妾宅』 青空文庫
電送通信もロイタース・エコノミック・サーヴィスも帯封のまま脇卓の上に積みあげ、新聞や景気速報は溜塗の新聞いれごとさげさせてしまう。
— 久生十蘭 『三界万霊塔』 青空文庫